大澳（タイオー）はランタオ島に位置する漁村の名前だ。ここは香港のベニスとも呼ばれている場所であり、村の中をぬう様に走る水路沿いには棚屋と呼ばれる水上家屋が立ち並んでいる。

水上家屋が立ち並ぶ光景。昔から変わらない生活の姿を見ることができる、人気スポットとして知られている。

この小さな漁村には車が走っていない。車の侵入は禁止されているのである。唯一の車といえば,　村の消防署にスタンバイしいる消防車であろう。ただこの消防車も香港市街でみかけるそれとは違い、村の細い路地に適した小型でコンパクトな、珍しい消防車である。

またタクシーもあることはあるが、乗用車としてのタクシーでなく、水路を走る水上タクシーのことを指す。大澳では観光地と観光地を結ぶ水上タクシーを呼ぶ事ができるのである。それが大澳なのである。

そんな大澳、香港市民が休日に訪れる場所として人気のスポットだ。人々は大澳ならではの光景といえる水上家屋・漁村の街並みを歩き回り楽しむ。そして漁村ならではの海の幸を購入したり、水上ボートに乗って海へ出てピンクドルフィンを探したりと、多くの見どころと大自然と昔ながらの生活を垣間見ることができる場所なのである。

そんな大澳で欠かせないアクティビティが、もう１つある。それは「ストリートフード」の食べ歩きなのである。

大澳の細い路地の両脇には多くの出店が並んでいる。軒先から漂う香ばしい香りは、訪れる人を魅了して止まない。匂いにつられ売られているものを覗いてみると、大澳ならではといえる魚の干物や揚げ物、魚肉や海の幸をふんだんに使ったフィッシュボールや蒸し物、大きなタコやイカを焼いたもの、ピーナッツや餡子をつつんだ餅（茶菓子）等など、すべて食べることはできない程多くの種類のストリートフードを見ることができる。人々は少し歩いては食べ、食べてはまた少し進みを繰り返しており、そんな食べ歩きこそが大澳に来る一番の醍醐味だという人も多い。

そんな大澳の食べ歩きで、とりわけ人気の店と食べ物がある。それは大澳ベーカリーという店の沙翁だ。沙翁とは昔ながらの香港式ドーナツといわれている品。揚げパンと言う人もいる。漁村である大澳と沙翁は何ら関係のないものではあるが、大澳といえば大澳ベーカリー、と名を上げる人がかなりいる程、人気の店なのである。

こちらの写真が沙翁だ。こぶし大程の大きさの揚げドーナツに、砂糖をまぶしている。昔は香港でも沙翁を売っている店が多かったようだが、最近ではなかなかお目にかかる事ができなくなっている。そんな中で、この大澳ベーカリーは香港３大沙翁と名前が上がるほどの人気店なのである。

店の前にはいつも大行列ができている。祝日や連休など休みの日ともあると、長い時で数十分の待ち時間がかかる事があるが、それでも人々はこの沙翁を食べようとする。

人気の秘訣は、この小さな店頭で揚げられ砂糖をまぶした、できたての沙翁を食べられる事であろう。沙翁は中はしっとりふわふわ、外は油でぱりっと揚げられており、揚げたての熱々の状態のものはなんともいえない美味しさなのである。

ふわふわの生地に砂糖の甘さが際立つ沙翁は、むかしながらのスナックの代表格だ。

この揚げたての沙翁を味わえる醍醐味はストリートフードの聖地ともいえる大澳だからこそ、であろう。

優しい甘さの沙翁は日本人にもどこか馴染みのある、昔ながらのスナックを思い起させる味である。

次回の香港は街の喧騒から離れ、昔ながらの姿を残す大澳でストリートフードの食べ比べをしてみてはどうだろうか。

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