技術と材料の進歩により、ヒューマノイドと呼ばれる人間型のロボットはますます進化しており、遠くから見たら、いやかなり近くから見ても本物の人間と見紛うほどのビジュアルをしたものも出現している。そして、人間により一層近づいているのは見た目だけではない。頭脳、運動機能、知覚機能といった部分の研究も日々進められ、驚くような成果が生み出されているのだ。今回紹介する、「痛み」を感じる新たな人工皮膚もその成果の一つである。
中国科学院寧波材料研究所のインテリジェント高分子材料チームがこのほど、炭素と高分子複合材料フィルムを材料とした、触覚から痛覚までを感知できる人工皮膚の技術開発に成功し、論文を発表した。
これまでにも感覚や痛覚を備えた人工皮膚は開発されてきたが、これらは予め設定した電気抵抗変化のしきい値を通じてヒトの触覚、痛覚を模擬化したもので、人工皮膚が受ける圧力の大きさが一定のレベルを超えると制御システムが働き、圧力に抗うよう体にアラートを発したり対処反応を起こしたりするというものだった。一方、軟組織が結合した生物体の体感システムは、組織や皮膚が引っ張られて歪んだ時にその刺激が「触れた」から「痛い」と感じるしきい値まで変化することで、傷害が発生しうる機械的刺激を主体的に感知して速やかに危険防止の反応を起こす仕組みも持っている。この歪み感知による感覚、痛覚の再現が人工皮膚における大きな課題となっていたのである。
そして、同研究所は柔軟性のあるグラフェン2次元結晶シート超薄膜(ECF)を人工皮膚の材料に採用してこの課題に挑んだ。このECFは炭素原子が蜂の巣状に並んだ構造を持っており、この構造がそうとして積み重なることで本物の脊椎動物の神経感覚系統に似たような動的ネットワークが形成され、外部からの刺激に敏感に反応して、通常の「触れた」という感覚から、しきい値を超えた「痛み」の感知までを再現することに成功したのだ。
ECFを利用した人工皮膚の感覚は非常に敏感で、軽く引っ張ったりつねったりするだけで痛みを感知し、処理システムに通知を行う。刺激が大きくなる前に素早く反応して、皮膚や組織にダメージが及ぶのを防ぐのだ。しかも「痛み」と認識するしきい値は必要に応じて柔軟に調節することが可能とのこと。「肌の感覚が敏感な人、鈍感な人」を自由に再現できるというのだからすごいではないか。
手の甲をキュッとつねられたときの痛みのほか、腱を伸ばしすぎたときの痛みなどもシミュレーションできる新開発の人工皮膚。物理的な寸法や形状に依存しないという使いやすさも大きなメリットだという。例えば、人間と機械が共同作業する際に、ケガをする危険を前もって「人レベルで感知」し、回避するよう教えてくれるなど、ヒューマノイドをはじめとするインテリジェント型の軟体ロボットの性能を大きく向上させる可能性を秘めている。人間をはじめとする生物本体に移植して皮膚として機能させるためにはまだまだ長い時間がかかるかもしれないが、各種ロボットへの応用は近い将来進むことだろう。
(出典:http://www.nimte.cas.cn/news/media/202205/t20220519_6450999.html)
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