今年の「両会」(全国人民代表大会と全国政治協商会議)で議論された大きなテーマの一つが科学技術の発展だ。その中で、中国の技術開発の現状を浮き彫りにするデータが注目を集めた。それは、大学などの教育機関や研究機関、そして企業による研究で得られた成果がどれだけ実用化に至っているかを示す「発明特許の産業化率」に関するデータである。
データによれば、中国ではこの5年で発明特許の産業化率は上昇傾向にあり、2022年には36.7%にまで高まった。産業化率の上昇は喜ばしいことだが、問題はその内訳である。企業による発明特許の産業化率が48.1%と全体平均を大きく上回ったのに対し、大学による発明特許の産業化率はわずか3.9%。研究機関による発明特許の産業率も13.3%に留まった。言ってみれば、大学では9割以上、研究機関でも8割以上の研究成果が日の目を見ることなく眠ってしまっており、大きなビジネスに繋がる可能性を秘めた成果も埋もれたままになっているのである。
山に埋もれた研究成果の数々が「使えないもの」ばかりかと言えば、そうではない。中国は今や科学技術分野における世界の論文大国になっており、昨年9月末時点での注目論文(過去2年に発表され、直近2カ月の引用回数が当該分野の上位0.1%に入る論文)数が1808本と米国を抜き初めて世界一になった。中国が多くの分野でハイレベルな研究を進め、多くの成果を出していることは論文に関するデータからも明らかだ。
それなのに研究成果の実用化、特に学校や研究機関での成果が実用化に至らない大きな原因はどこにあるのか。中国の専門家たちは研究成果を市場に橋渡しする体制が十分整っていないことを挙げている。中国では2015年に「中国版バイ・ドール法」と呼ばれる改正「科技成果転化促進法」が施行され、技術成果と市場をつなぐバイパスが整備され、市場に多くの技術成果が出回るようになった。しかし、それでもまだまだ不十分であり、さらに細かい規定、制度を設ける必要があるというのだ。また、制度とともに発明特許の実用化を実現するマネジメント人材の育成も急務だと指摘する専門家もいる。
研究環境の整備や破格の待遇によって世界のハイレベルな研究者が集まりつつある中国の大学や研究機関。その研究成果のほとんどが産業化されずに眠っているというのは実にもったいない話である。今後制度面でのサポートが強化され、産業化に向けたスムーズな道が開かれれば中国の科学技術研究、各種産業がさらに飛躍的な発展を遂げることになるかもしれない。今の数字が低いだけに、その潜在力の大きさは恐怖すら感じるほどだ。
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