九龍皇帝(King of Kowloon)の存在はご存知だろうか?
1920年代に生まれた彼は、実は2007年に既に亡くなっている。その昔皇帝から香港九龍の土地を譲り受けたと主張をしていた彼は、イギリス領であった頃の香港に不満を抱いていた。そして「九龍こそは自分の土地である」という自らの主張を、道や電柱、建物の壁やポストなど至るところに書いていった。
お世辞にも上手とはいえない文字で彼の主張を表した「作品」は、彼が生きている頃は、それこそ香港中で見ることができた。現代風に言えば公共の場所に「落書き」をしていくので、警察に捕まった事もあったり、頭のおかしいおじいさんという目で見られた事も多いと聞いている。それでも彼の独特の文字や主張に何時しか親しみを覚える人も増えていき、CMに出演する事もあったという。また香港返還後は彼の主張を記した文字を「香港らしいアート作品」と捉える人が出てきて、彼のポジションは道端で落書きをするおじいさんからアーティストに変わっていった。九龍皇帝の作品をモチーフにした商品さえも発売されるようになってきた。
香港の都市開発が進み 彼が逝去した後は、香港の街からどんどん「作品」が消えていった。しかし街が変わると共に人々は古きよき香港らしさを追い求め、それと共に九龍皇帝のよさが更にクローズアップされるようになってきている。最近では彼の作品や生い立ちを追った展示会が多くの場所で行われ、今年の夏は東京のアートギャラリーでも展示が行われたとの事だ。
ここ香港でも昔は至るところにあった作品はごく僅かに残るのみとなっている。その中で観光客がすぐに見ることができる作品が、尖沙咀にあるスターフェリー乗り場前の柱だ。
スターフェリー乗り場前にある九龍皇帝の貴重な作品
残された作品の多くは場所が知る人ぞ知るという場所として扱われているようなので、この柱は気軽に見ることができる貴重な唯一の作品と言える。作品を保護をする為に柱はガラスで覆われているのだが、彼の力強く活き活きとした文字は見てとることができる。
そしてこちらは彼の作品をモチーフとした壁。実はスターバックス(モンコク)の壁の一部である。香港アーティストの雑貨が売られているGODとのコラボレーション店、第2号店の壁である。
スターバックスXGODコラボ店の店内への壁
このように、上手なのか下手なのかは分からないが、現代人の心を魅了している九龍皇帝のダイナミックな主張と作品は、現代では香港を代表するアートの一つとして扱われているので、ぜひ一度ご覧頂きたい。
機会があれば、筆者が第二の九龍皇帝のポジションになるのではないかと思っている人物や香港の広告事情についてもご紹介していきたい。(文/写真 香港コーディネーター 矢島園子)
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