大学受験シーズンに注目集めた、延吉名物「打糕」のゲン担ぎ

■中国全土が固唾をのむ「高考」、ゲン担ぎにも気合が入る

毎年6月上旬は中国全土が固唾をのむ、全国統一大学入学試験、通称「高考(ガオカオ)」の季節だ。世界最大規模の一発勝負と言える「高考」、今年は約1290万人の学生が受験した。進路の多様化によって近年は受験者が減っているようだが、それでもなお「学歴重視」の傾向が強い中国。「高考」は今も受験生だけでなく、家族全員にとっての一大事なのである。

試験会場の周辺では早朝から受験生を見送る保護者らで混雑し、縁起が良い色とされる赤のチャイナドレスを着た母親の姿が多数見られた。また「鯉の滝登り」にあやかったコイや、「首席合格」と発音が似ているという理由でちまきを食べるなど、ゲン担ぎの食事も人気を博した。本人や家族が願掛けをするのは、日本も中国も同じだ。

■吉林省延吉市ではお餅を壁に投げる

「高考」のゲン担ぎでユニークな風習を持つのが、吉林省延辺朝鮮族自治州延吉市だ。試験当日の早朝、まだ暗い校門の前に集まった親たちが、白い餅を壁や掲示板めがけて投げつけるのである。高得点を意味する「打高分(ダー・ガオフェン)」を、餅を意味する「打糕(ダーガオ)」に引っ掛けたゲン担ぎだ。

学校の壁に餅を投げつけるほかに、合格後に乗るはずの大学行きの列車の切符や、わが子の名前を書いた紙を餅に挟み込む親もいる。餅だけにその「粘り気」が志望校への合格を「引き寄せる」という願いも込めて。学校側も近年では専用の掲示板を設けたり、校門をビニールシートで覆ったりと、この習慣を受け入れながら対応するようになっている。

笑えるような光景だが、当人たちは至って真剣。子を思う親の真剣さが、白い餅の向こうに透けて見える。

■延吉の人々が大切にする「打糕」文化

かくしてこの季節、ゲン担ぎのアイテムとして人気の「打糕」だが、もともとは朝鮮族の伝統菓子として親しまれてきたのである。

かつて延吉の街では、「ヘイヨ! ヘイヨ!」という掛け声とともに、重い木槌が木臼の中の打糕を打つ音が至る所で聞かれ、街には打糕を蒸した香りが漂っていた。家に慶事があると女性たちが打糕作りに精を出していたとのことで、その伝統は今もしっかり受け継がれ、冠婚葬祭や誕生日、新年の挨拶など、人生の節目に欠かせない食べ物として大切にされている。

地元の人々にとって打糕は、土地の空気と人々の情熱が結びついた、文化の記憶そのものと言っていいだろう。

■打つほど極上の仕上がりに、心も体も満たされる

打糕の独自性は、文字通り「打つ」という製法にある。もち米やキビを蒸し上げ、木の臼か石の臼に移して木槌で丹念に叩く。通常は二人が交互に呼吸を合わせて叩き、夫が槌を振り、妻が手際よく生地を返すという共同作業も見られた。繰り返し叩くことで米の組織が完全に崩れ、独特の色艶と弾力が生まれる。もちもち、ねっとり、しなやか、柔らか。4つの食感が一体となった極上の仕上がりだ。

また、朝鮮族の文化において打糕は「誠実、愛、孝行」を象徴する贈り物とされ、親戚や近所へ真心を込めて配る習慣が今も続いている。

地元の食堂や家庭で打糕がふるまわれるとき、「たくさん食べなさい、胃にいいから」と声をかけてくれるのも延吉ならではの情景だ。清々しい香りと滑らかな喉越しを持ち、噛むほどに深い旨みへと変わる打糕は単においしいだけではない。「夏に食べる打糕は、小さな高麗人参のようなもの」という言い習わしがあるように、滋養強壮に優れた食べ物としても重宝されてきた。

何度となく打ち続けられる打糕の音は、延吉に生きる人々の勤勉さと、家族を思う温かさの証しだ。実際に延吉を訪れて打糕を味わえば、この街が持つ独特の情緒と、人々の純粋な幸福感に触れることができるだろう。

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