中国で波紋を広げる「生存確認アプリ」の正体とその背景

■「死んだのか?」という名のアプリが、突然ランキング1位に

2026年1月、中国のアプリストアで「死了么(スーラマ)」という物騒な名前の安否確認アプリが突如として有料ランキング1位を獲得し、SNS上で大きな話題を呼んだ。

この名称、実は中国で生活インフラとなっているフードデリバリー大手「餓了么(ウーラマ、意味は「お腹空いたか?」)」を露骨にもじったもので、直訳すれば「死んだのか?」。伝統的に「死」を忌み嫌う中国社会においては、かなり刺激的な問いかけだ。

それでもリリースからわずか48時間でダウンロード数が数百倍に跳ね上がったという事実は、単なるブラックユーモアでは説明がつかない。

■仕組みは驚くほどシンプル

アプリの機能は潔いほどシンプルだ。ユーザーは毎日アプリを開いて「チェックイン」するだけ。もし2日間操作が途絶えると、あらかじめ登録した緊急連絡先のメールアドレスに自動で安否確認の通知が送られる。

開発したのは「95後(1995年以降生まれ)」の若者3人組で、開発費はわずか1000元(約2万3000円)ほど。当初の販売価格は1元(約23円)だったが、爆発的な人気を受けて現在は8元(約190円)に値上げされており、将来的には15元程度まで引き上げる可能性もあるという。

さらに、100万元(約2300万円)で株式の10%を売却する計画があり、すでに企業価値は1000万元(約2億3000円)に達するとも試算されている。ちょっとしたミームのつもりが、気づけば本格的なビジネスになっていた、ということだろう。

■2億5000万人が「一人暮らし」という現実

「名前が面白いだけの出落ちアプリ」に終わらなかった背景には、中国が抱える切実な現状がある。

最新の統計によれば、中国の独り暮らし人口はすでに2億5000万人。そのうち20〜45歳の単身者だけでも1億8000万人にのぼる。25〜29歳に限っては未婚率が51%を超え、都市部の狭い部屋で一人きりで暮らすことが、もはや珍しくない時代になっている。

かつて「孤独死」は高齢者の問題だと思われていた。しかし、不動産価格の高騰、過酷な労働環境、変化する結婚観といった要因が重なり、「自分が倒れても誰にも気づかれないかもしれない」という不安は、今や若い世代にとっても他人事ではない。

■「深い関係」より「目的限定のつながり」を選ぶ世代

開発チームが同世代の「95後」だったことも、このアプリが刺さった理由のひとつかもしれない。

いまの中国の若者の間では、「搭子(ターズ)」と呼ばれる関係スタイルが広まっている。特定の目的のためだけに一時的につながる、責任も情緒的な重荷も極力省いた希薄な人間関係だ。深く関わることに疲弊した彼らが、安否確認を「数元のデジタルツール」に任せようとすることの重さと可笑しさを、このアプリの名前はうまく突いている。

■名前は「不吉」か、それとも「正直」か

アプリ名の是非をめぐっては、著名なコメンテーターが「活着么(生きているか)」への改名を提案するなど、大きな議論になった。しかし利用者の多くは、「死」というタブーをあえて直視することで恐怖を中和できる、としてこの名前を支持している。

一方、本アプリの成功を見てAIを使いわずか6時間で開発された無料の類似アプリ「活了么」も登場するなど、模倣品との競争も始まっている。ただ、通知手段がメールに依存しており開封率が低いこと、数日のタイムラグが生じる仕組みであることなど、ITソリューションとしての限界を指摘する声もある。

■「Demumu」として海外へ。でも本質的な問いは残る

「死了么」はグローバル展開を見据えて「Demumu」への改名を発表したが、海外でも同じように受けるかどうかはまだわからない。

確かなのは、このアプリの登場が、中国の公共サービスやコミュニティによる見守り機能の不在を改めて浮き彫りにしたということだ。デジタルツールが一時的な安心を提供できたとしても、そもそもなぜ安否を確認し合える人間関係が持ちにくくなっているのか。その問いへの答えは、アプリの外側にある。

そして「死了么」ブームは、同様の問題が日本にも存在し、われわれも真剣に考える必要があるということも同時に示唆しているように思える。

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