科学技術の進歩に伴って、これまでには存在しなかったユニークな性質を持つ素材が次々と開発されている。中国では昨年、西安交通大学の先端科学技術研究院と金属材料強度国家重点実験室の博士課程学生・徐治志氏らの研究チームが、高い強度を持ちながら柔軟性にも富むという一見矛盾した性質を兼ね備えた新しい金属の開発に成功し、科学雑誌「ネイチャー」で研究成果を発表した。
■強度と柔軟性は両立できるのか?
SF作品でおなじみの、自在に姿を変えられる飛行機やロボットを実現するには、高い強度を保ちながら柔軟性に富んだ金属材料の開発が不可欠だと言われる。しかし現在の物理学の原理では、強度と柔軟性を同時に実現することは難しいと考えられている。超高強度の鋼のような強さを得るには強力な原子結合が必要だが、その引き換えに柔軟性を失うことになるからだ。「柔」と「剛」は両立できない、というのが覆すことのできない定説となり、「強くて柔らかい」金属は夢のような存在とされてきたのである。
■不可能を可能にする「ひずみガラス」技術
そんな中、徐治志氏らの研究チームは、世界で初めて発見した「ひずみガラス」(strain glass)の基礎研究成果を踏まえ、大規模生産が可能な3段階の熱機械処理技術を用いることで、商用のTi-50.8Ni合金内に2種類のマルテンサイト変態の「種」を持つ独特な「ひずみガラス」状態(DS-STG)を実現した。この状態の合金は、変形による加工硬化によって得られる超高強度と、明確な核生成を伴わないマルテンサイト変態によってもたらされる非常に高い柔軟性、可逆変形性を兼ね備えているという。つまり、この技術によって、これまで不可能とされていた「強くて柔らかい」金属の開発が実現したことになる。
■未来技術への応用と可能性
また、この合金はマイナス80℃からプラス80℃の温度範囲でも特性が維持されるだけでなく、高い耐疲労性を備えており、極めて厳しい環境にも対応が可能だ。このため、「トランスフォームする飛行機」のほか、非常に高い精度が要求される人工筋肉や人工臓器、次世代ロボットといったさまざまな分野への応用が期待できる。この画期的な「強くて柔らかい」金属の誕生は、これまでの金属の概念を覆し、未来の技術に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。
(出典:https://www.stdaily.com/web/gdxw/2024-09/09/content_226778.html)