中国本土のスターバックスが10月22日、全国の店舗で「注文した客だけが席を使える」ルールを始めた。1999年の北京1号店から27年、「何も買わずにふらりと座れる店」として通ってきた中国スタバのルール変更。数年前なら「市民に冷たい」と大炎上したかもしれないが、ネットでは歓迎の声が多数を占めている。

■何が変わったか
発表の数日前から「スタバの営業スペースです。ご注文のうえお座りください」と書かれた未開封の札の写真がネットに出回っていた。店員の話として10月20日開始と報じられたが、運営会社はいったん「事実ではない」と否定している。しかし21日になって正式に発表し、翌22日からの全国実施を明らかにした。
一方で会社側は、妊婦や体の不自由な客など手助けが必要な人には優先して対応すると説明している。9月末からの2027会計年度にはピーク時間帯の増員、デジタルシステムと設備の更新、中国本土の約1000店舗の改装にも追加投資する計画だ。
誰でも空間を利用できる、というスタンスをやめ、お金を払って利用する人へのサービスをより充実させるという方針への変更、ということだろう。

■同じ動きはイケアでも
10月下旬には、上海のイケア徐匯店でも動きがあった。レストランで長時間の席取り、大声での会話、持ち込み食品の飲食が目立ち、食事をする客の妨げになっているとして、毎週火曜と木曜に「食事をする人の着席」を促すことを発表したのだ。


この店のレストランには以前から毎週火曜日と木曜日に中高年の「お見合いグループ」が集まってきたという。店員によると、果物を持ってお見合いに来る高齢者がいて、ゴミが一日で片付かないと話している。店側は辟易しながらも黙認していたが、ついにがまんの限界を迎えた、といったところだろう。
なお、この「お触れ」はあくまで徐匯店だけのものであり、中国本土の全店共通に適用されるわけではない。
■2年で変わった世論
今回、スタバの措置に対しネットでは賛成の声が多数を占めた。国内メディアは「珍しく支持の声が多く集まった」と報じ、河南省のスーパーマーケットチェーン「胖東来」の著名創業者、于東来氏も10月30日、商品を購入しての着席を制度で後押しすべきだとSNSに投稿している。
少し前までは、買わない客を帰らせれば、ネットで叩かれるのは店のほうだった。
2022年2月には重慶の店舗で、店の前の屋外席で弁当を食べていた警察官に、店員が場所を変えるよう求めたとされる件がネットで広まった。運営会社は追い払った事実はないとしつつ、言葉が不適切だったと謝罪した。それでも店は卵が投げつけられるなどの嫌がらせを受けた。
2024年5月には西安の店舗で、座って1分ほどの男性に、店員が「座るだけなら商業施設の休憩所へ」と促す動画が広まった。このとき世論の多くは買わない客の側に立ち、「サードプレイス(家でも職場でもない3つ目の居場所)」に入場料を設けるのかという疑問の声が上がった。
それが今年に入って流れがはっきり変わった。2026年7月、天津のスタバ店舗が独自に「ご注文のうえお座りください」の札を置いたところ、ネットの大半はこれを支持し、全国に広げてほしいという声まで出た。
同じ夏には、浙江省湖州市のスタバ店舗で女性3人が開店から昼まで何も注文せずに席に座り続けた挙句、不在時にその席に座りコーヒーを飲んでいた客を追い出した。この件がネットで話題になると、コメント欄は3人を責める声ばかりになった。
■この変化をどう読むか
この変化を、社会の成熟とみる論者もいる。以前の世論は店にだけ温かさと弱い立場の人への寛容さを求め、客を帰らせれば金持ちびいきだと責めたが、ここ数年で店は客に節度をもって接し、客も店のルールを尊重する、という共通認識に変わってきたというのだ。
高速鉄道で他人の座席に居座る、シェアサイクルを自宅に持ち帰るといった公共のものを独り占めする振る舞いが反感を買い、代金を払った客に対する侮辱と受け止められるようになった。それこそ社会が成熟した表れだと評価している。
ただし、「買わない客」の利用を断る措置への反発がなくなったわけではなく、根強い反対の声があることも事実だ。評論家の龔進輝氏は、反発の根には「サードプレイス」への期待を裏切られた失望があると分析し、入店前の告知、混雑時と閑散時で対応を分けること、例外の扱いを明文化して公開するといった細やかな対応が店舗に求められていると指摘した。
■サードプレイスはどうするのか
スタバの措置は、店舗の経営上至極真っ当な措置であり、それ自体非難されるべきものではないだろう。ただ、考えなければいけないのは「追い出される人たちが、どこに行ったらいいのか」だ。
昼間のスーパーの休憩コーナーやフードコートにお年寄りが溜まるという現象は、日本でも見られる。中国のスタバや上海のイケアを「憩いや集いの場」としていたお年寄りたちは、どこへ行くのか。高齢化が進む中で、店の善意に依存してきた「サードプレイス」のあり方が、今後ますます問われることになる。



