中国で過熱するAIショートドラマブーム、見すぎると「頭が回らなくなる」?

いま中国のSNSでは、人工知能(AI)を使って制作されたショートドラマを見続けた人たちから「見終わったあと、なんだか頭が回らなくなった気がする」という声が相次ぎ、議論を呼んでいる。

中国の調査データによれば、ある大手ショートドラマアプリの今年の7~9月における1人あたりの1日平均利用時間が約2時間半に達し、国民的な通信アプリ「WeChat(ウィーチャット)」の利用時間を上回ったという。

気軽な息抜きだったはずのAIショートドラマが、なぜ多くの人に疲労感や虚脱感をもたらしているのだろうか。

■5秒でトラブル、20秒で逆転する世界

中国のショートドラマアプリで人気を集めるAI作品は、通常のドラマと比べて対立やどんでん返しがぎゅうぎゅう詰めになっている。開始5秒でトラブルが起き、8秒であっと驚く転換が発生し、20秒目には悪者がやっつけられるといった具合だ。

筋書きは虐げられた主人公の復讐や劇的な成り上がりなどどれも似通っており、突然神々を呼び出して敵を一掃したり、一文無しだった人物が突然巨額の資産を手に入れたりと、常識や筋道が抜け落ちた展開も珍しくない。現地のネットユーザー曰く「理屈を持ち込んだら負け」なのである。

実際に撮影するわけではなく、思いついたものを手軽にかつ大量に映像化できるというAI生成の特徴が、この傾向を助長する大きな要因になっている。

めちゃくちゃな筋書きでも視聴者が画面を閉じられないのは、1話わずか1分から2分という短さで100話前後も続き、毎回気になる場面で終わるからだ。「10分だけ」のつもりが深夜まで止まらなくなる。「時間が溶けていく」という言葉ほどその感覚を的確に表現しているものはないだろう。

もちろん「疲れた日に痛快なドラマを見て何が悪いのか」という声もある。しかし、純粋に楽しめる人がいる一方で、極端な展開に感情を揺さぶられて視聴後に虚脱感に襲われ、もう止めようとアプリを消すものの、また見たくなって再インストールするという悪循環に悩む人も少なくない。

■刺激に浸り続けることで失われるもの

「見終わったあと、なんだか頭が回らなくなった気がする」という声に対して中国のある医師は、ドラマを見続けたからといって医学的に知能が下がるわけではないと説明している。頭がぼんやりする感覚は、強い刺激で脳内の快楽物質が出続け、脳が長時間の興奮でオーバーヒートを起こしているためであり、休めば回復するものだそうだ。

それよりも、刺激に浸り続けることで時間の管理能力や自分を律する力が少しずつ削られていくことに警戒しなければならない。また、場面が猛スピードで切り替わる動画を受け身で見続けていると注意力が低下し、根気よく分厚い本を読んだり複雑な仕事に取り組んだりすることができなくなるという。

さらに、単純な逆転劇ばかりに触れていると、複雑な現実の課題に真正面から向き合う意欲まで弱まってしまうとの指摘もある。

■問題なのは「見る側」だけなのか

もちろん、問題は視聴者だけにあるわけではなく、視聴者を誘導する配信アプリや動画制作者の問題を見過ごすわけにはいかない。

最近では伝統的な神話の世界観を新しい表現で広げた『中国神話』や、温かい台湾料理を通して中国本土と台湾の文化的なつながりを描いた『誰の三杯鶏』、壮大な映像で環境問題や人類の生存という深いテーマに踏み込んだSF作品『帰墟』など、名作と称されるAIショートドラマが増えてきている。粗製乱造状態だったAIショートドラマ分野において、量から質への転換が模索され始めている。

さらに注目したいのが、配信アプリ側への規制強化だ。これまでアプリ側は、動画が終わると同時に次の話を自動再生させ、利用者の好みに合わせた作品を際限なくおすすめ表示して画面に縛りつけておきながら、抜け出せない原因を「利用者の自制心不足」に押しつけがちだった。

こうした状況を受け、中国の国家広播電視総局が今年9月1日に施行した「微短劇(ショートドラマ)発展管理弁法」では、配信事業者に対して質の高いショートドラマを優先的に推薦すること、利用者を依存させたり過度な課金・消費を誘ったりするアルゴリズムモデルを使わないことを要求した。また、アルゴリズムの定期的な検証も義務付けた。とくに高齢者や未成年者による依存や過度な誘導を防ぐ対策をいっそう厳格にすることも求めている。

なりふり構わぬ再生数至上主義から、利用者の注意力を適切に管理できるよう手助けする「優れたプラットフォーム」への転換を促すルールがようやく形になり始めたのだ。

■AIと人間の付き合い方を考えるきっかけに

AI依存の「副作用」はショートドラマに限った話ではない。簡単に答えを出し、アドバイスをしてくれ、大量の作業をこなしてくれるAIに大きく依存すれば、自分で考える機会が減り、問題を解決する根気も気力も失われる可能性がある。中国で起きているAIショートドラマのあり方を巡る議論は、AI時代が到来した現在の世界において大きな普遍性を持っていると言えそうだ。

AIを使うことが問題なのではない。AIをどう使うかこそが問題なのだ。

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