台湾の「魔神仔」を追う:黄金博物館行方不明事件

今回は台湾を舞台に、2013年に金瓜石黄金博物館で起きた日本人観光客失踪事件の真相に迫るという、異色のテーマに取り組みました。

金瓜石黄金博物館:失踪事件の足跡を辿る

番組制作にあたり、私たちはまず事件の舞台となった金瓜石へ向かいました。現地では、金瓜石地区の責任者である張先生にご協力いただき、黄金博物館を案内していただきました。張先生からは、事件発生当時の状況について詳細な説明を受け、その生々しい証言に私たちは深く耳を傾けました。

この失踪事件は、2013年7月2日、74歳の日本人観光客、鈴木節兵衛氏が金瓜石黄金博物館で姿を消したことから始まりました。園区内で突然行方不明になった鈴木氏の捜索は、新北市政府と消防局を巻き込む大規模なものとなりましたが、広範囲にわたる捜索にもかかわらず鈴木氏は見つからず、まるで「人間が蒸発したようだ」と形容されるほどでした。ところが3日後の7月5日午後、黄金博物館からかなり離れた瑞芳濱海公路(海岸線道路)の道端で鈴木氏が無事発見されたのです。発見時、彼は衰弱していましたが、命に別状はありませんでした。
私たちは当時捜索に携わった方々へのインタビューも敢行しました。彼らの証言からは、必死の捜索活動の様子が伝わってきました。その中で何度も耳にした言葉が、台湾の民間信仰に登場する謎めいた存在、「魔神仔(モシナ)」でした。この「魔神仔」が、事件の背景に何らかの形で関わっているのではないかという疑念が、私たちの心に強く残りました。

「魔神仔」の深淵へ:林美容教授との出会い

「魔神仔」の謎を解き明かすため、私たちは台湾国立研究院を訪れ、「魔神仔」研究者である林美容(リン・ビヨウ)教授にお話を伺いました。林教授は、長年「魔神仔」や「鬼の話」についてフィールドワークを行い、その人類学的想像を体系的に分類した2冊の著書『魔神仔的人類學想像』と『台灣鬼仔古』を出版されています。

林教授は、ご自身の三番目の妹の友人が語った「南港の山間部には近づくな。魔神仔が子供を連れ去るから」という幼少期の言い伝えが研究のきっかけになったと語られました。彼女の研究は、「魔神仔」が人類初期のジャングル生活の経験と関連していること、そして「鬼の話」が台湾人の生と死に対する繊細な感情を映し出していることを示唆しています。林教授のお話は、「魔神仔」が単なる迷信ではなく、台湾の文化や人々の心に深く根差した存在であることを私たちに教えてくれました。

陽明山での「神隠し」体験:学生たちの証言

林教授のご紹介もあり、私たちは彼女の学生2名(呉氏と陳氏)と共に、彼ら自身が実際に「魔神仔」による神隠しに遭遇したという山中へ向かいました。道中、彼らは2022年11月25日に陽明山のバス停で経験したという驚くべき出来事を語ってくれました。

呉氏との陽明山での散策中、霧がかかり始めたのを見た陳氏は、「ここは原住民の祖霊の聖地で、昔は小さな精霊がいたんだ」と冗談交じりに話したそうです。その後、頂湖站のバス停でバスを待っていたところ、突然、腕の太さほどの白い雲がロープのように空から降りてきて、半身の高さで消えたかと思うと、次の瞬間には濃い霧が広がり、周囲の景色が一切見えなくなったといいます。

それからの2時間半、二人はバス停に閉じ込められた状態に。最初は車や登山客の行き交う音や姿が見えていたにもかかわらず、霧に包まれてからは何も見えなくなり、バスも来なかったそうです。ようやく霧が晴れると、何事もなかったかのようにバスがやってきて下山できたとのこと。呉氏は「山の精霊や原住民の祖霊を軽んじてはいけない」と語り、冗談を言い過ぎたことで祖霊を冒涜してしまったのかもしれないと、事件後に恐怖を感じて廟へ参拝に行ったと話してくれました。

探求の先にあるもの

今回のロケは、単なる失踪事件の追跡に留まらず、台湾の奥深い民間信仰と、それを取り巻く人々の感情に触れる貴重な機会となりました。私たちは、現地の方々との信頼関係を築き、文化的な背景を深く理解することで、表面的な情報だけでは捉えきれない真実の一端に迫ることができました。

今後も、私たちは皆様の期待を超えるような、質の高い番組制作に尽力してまいります。

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