中国では毎年旧暦8月15日が中秋節に当たり、今年は9月25日となっている。家族で月を眺め、月餅をつまんだり贈り合ったりする、一年でも大きな行事だ。この時期になると、中国国内では月餅の話題が大きく取り沙汰される。
かつては月をかたどったまん丸の形状が当たり前だったが、時代の流れとともに多様化が進み、今では「丸くない月餅」も珍しくなくなった。

■造型美を追求する月餅
たとえば浙江省金華に登場したのは、酒瓶やバラ肉をそっくりかたどった立体的な月餅だ。丸い生地に型で模様を押すのではなく、立体に成型してモチーフそのものの形に仕上げてあるから、ぱっと見では月餅とわからない。中身の餡や皮の味で勝負というより、まずは形で「おっ」と思わせる作りだ。
しかもこれ、店頭だけでなくネット通販でも注目を集めているという。昔ながらの菓子に若者好みのデザイン感覚を持ち込んだところが、うまくはまったらしい。中国で今盛んな「文化創意(クリエーティブ)」製品というやつだ。

■無形文化遺産を看板にする一皿
また伝統工芸とのコラボレーションを果たした月餅もある。安徽省淮北市濉渓県では、花饃(飾り蒸しパン)の無形文化遺産を受け継ぐ店が、その技術を活かしてハスや玉兎(月のウサギ)をかたどった月餅を売り出した。デザインもさることながら、茶色一色だった月餅のイメージを根底から覆すような鮮やかな色彩も実に印象深い。
花饃はもともと、黄河流域で婚礼や節句、祭祀のときに作られてきた縁起物の食品で、食べること以上に「礼」を尽くすための存在だった。動物や花の形に縁起の意味を込めるのが習わしで、その技法を月餅に持ち込んだ、というわけだ。

■実は古くからあった「丸くない月餅」
形で遊ぶ月餅そのものは、実はそれほど新しい話でもない。広東省に古くからある「猪仔餅」が、その好例だ。もとをたどれば、月餅を焼く前に炉の温度を確かめるため、餡を包まない生地を試し焼きしたのが始まりとされる。それを子豚(猪仔)の形にして竹籠に入れ、月餅を買った客へのおまけとして添えたのだ。
竹籠は「猪籠入水(財が転がり込む)」の「猪籠」に音が似ており、子豚と竹籠の組み合わせが縁起物として大いに人気を集めた。また、月餅がまだ高価で手が届かない家庭も多かった時代には、この安価な餅が中秋の埋め合わせにもなった。工業生産が広がると一度は姿を消しかけたが、近ごろは懐かしさから作り直す老舗も出てきているそうだ。
■なぜ「見た目勝負」になるのか
月餅は食べ物だが、「味より先に、まず見た目」にこだわる傾向がある。というのも、もともと月餅は中秋の贈答品として発展してきた歴史を持つからだ。他とは異なる独特な形状が、「あなたは特別です」というメッセージになって相手に伝わるのである。
そして、昨今のSNSブームも月餅の「ビジュアル至上主義」に拍車をかけた。先日は「月餅を『生き生きしている』なんて言葉で形容したのは初めてかも」といった投稿がバズったほか、ハスの花やカニ、子豚などをかたどった月餅の写真が一気に出回り、「かわいくて食べられない」といった反応が寄せられた。
また、若者を中心に流行している、伝統モチーフを今っぽく仕立て直す「国潮」スタイルを表現する対象にもなっている。神話や無形文化遺産、人気キャラクターとのコラボ商品もぐっと増えており、「月餅は時代のトレンドを象徴する」と言ってもオーバーではないかもしれない。
■過剰包装が禁じられた影響も?


月餅の「見た目勝負」傾向には、実は規制も関係している。かつての「見た目勝負」は月餅本体ではなくその包装で繰り広げられており、豪華すぎる包装の高級月餅が問題視されるほどだった。
そして、2022年には包装の簡素化を規定したルールが施行され、月餅の包装は3層まで、貴金属や紅木は使用禁止といった制限がかけられた。豪華な箱で高級感を出す手が使いづらくなったぶん、月餅そのものの造型やデザインに力が向かったということになる。
丸い月餅を家族でつまむ、という昔ながらの中秋節の風景からすると、酒瓶やカニの形の月餅はずいぶん遠くまで来た気もする。ただ、たとえ千里離れていても見ている月は同じように、時代が流れて形が変わっても、月餅に込められた中国の人々の思いは変わらない。
9月25日の夜、煌々と輝く満月を眺めながら食べる月餅はどんな形だろうか。中国のSNSではきっと、ユニークな月餅に関する写真や動画の投稿が次から次へと投稿されることだろう。



