
広大な国土と13億人の人口を誇る中国には56の民族が存在し、それぞれ独自の伝統文化を持っている。4月から5月にかけての春のシーズンには各地でさまざまな民族による祭りが開催されて賑わいを見せるが、なかでも個性的な祭りの一つが毎年5月1〜4日に開かれる雲南省の「ワ族(佤族)」による「モンネハイ」祭りだ。
■「モンネハイ」祭りとは?
「モンネハイ」とはワ族の言葉で「あなたをハッピーにさせる」という意味。祭りでは参加者同士が泥を塗りあい、みんなで泥んこになりながら楽しい時間を過ごすのだが、この泥にもれっきとした起源がある。古くより、蚊が増え、毒気や瘴気が立ち込める毎年春から夏になると、ワ族の人々は赤土に牛の血、人を生き返らせる伝説があるという伝統の薬草「半截藤」を混ぜ合わせた「娘布洛(ニャンブールオ)」と呼ばれるペーストを作って体に塗ってきた。その習慣が祭りに進化したというわけだ。実際、祭りに用いられる泥も赤土にハーブが配合されており、普段は味わえない「泥んこ」の快感を味わいながら泥パックまでできるという、まさに心身ともに「モンネハイ」な体験ができるイベントなのである。
ところでこの「モンネハイ」、漢字では「摸你黒(モーニーヘイ)」という文字が当てられている。原音に近い上に「あなたを黒く塗る」という意味的にも、この祭りを表現するのにこれ以上ないぴったりな漢字名と言えるだろう。

■歌に踊りに泥塗りに、会場は熱狂の渦に
祭りのメインイベントである泥塗りはまず、伝統的な歌と踊りの中でワ族の若い女性たちが「娘布洛」を持って観光客の人だかりの中に入り、顔に泥を塗り始める。最初はおとなしく泥を塗られる観光客たちも、歌や踊り、太鼓のリズム、そして笑いながら次々と泥を塗っていくワ族の女性たちの勢いにつられて、互いに泥を塗り合うようになる。まずは仲間同士、そして見知らぬ人、さらには好みの異性の相手と参加者の理性はだんだん崩壊していき、会場は大歓声をあげながら人々が追いつ追われつする大狂乱のるつぼと化す。まさに「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」であり、あらゆる人が熱狂の中に身を投じていくのだ。
日中の気温は25度程度と暖かく、半袖短パンがベスト。間違ってもスカート姿で会場に行ってはいけない。メガネも危ないので外すべきだが、お肌にいいと言われるハーブ入りの泥も目に入るとかなり痛いらしいのでゴーグル着用を推奨。熱狂をスマホのカメラに収めたい衝動に駆られるかもしれないが、泥だらけで使えなくなるか群衆の波にさらわれるかのどちらかなので止めておいたほうがいい。そして、泥だらけになった体は縁起物なのですぐに洗い落とさず、祭りがすべて終わって家やホテルに戻ってから洗い落とすといいらしい。

■泥塗り意外にも見どころ満載
「モンネハイ」関連イベントは4月から始まっており、地元のグルメを味わったり、民族芸能を披露したり、現地の神様「莫偉神」を祭ったり、キャンプファイヤーを囲んで1万人が踊ったりといった、現地の伝統的な習慣に触れ、楽しむ催しが数多く行われている。また、無形文化遺産展や闘牛大会、ミャンマーとのバスケットボール親善試合、さらには投資誘致説明会まで開かれるという。泥塗りのメインイベントはもちろん、滞在中に遭遇する出来事の数々は、きっと生涯忘れられない思い出になるだろう。
熱狂的な祭りといえばシーサンパンナのタイ族による水かけ祭りが有名で、今年も4月15日に行われたばかりだ。「モンネハイ」は水かけ祭りほど知られていないものの、その熱狂ぶりは水かけ祭りに引けを取らないという。伝統的なスタイルが色濃く残ったディープな祭りを味わいたいのであれば、「モンネハイ」に参加しない手はないだろう。