9月9日から14日までの6日間、中国・マカオ特別行政区で卓球の世界大会「WTTチャンピオンズマカオ2025」が開かれる。マカオでは20年から毎年WTTの大会が開かれており、男女各シングルスのトップ選手それぞれ32人が出場予定となっている。日本からは張本智和・美和兄妹や早田ひな、伊藤美誠らが参加し、中国からも林詩棟、孫穎莎という男女の世界ランク1位選手が参戦する。今回は、熱戦が期待されるマカオにある世界遺産について紹介したい。

その前に、マカオの歴史について簡単に振り返ってみよう。広東省珠海市の南、珠江の河口を挟んで香港と対岸どうしの位置にあるマカオはかつて広東省や福建省から人々が移住して開拓されたという。16世紀には海上貿易の拠点として栄え、1557年にはポルトガル艦隊のレオネル・デ・ソウザが海賊退治に協力して明朝からマカオ居留が認められた。
明朝の滅亡に伴ってアジアの貿易拠点は広州へと移り、17世紀以降はかつての繁栄を失っていく。ポルトガル人の居留はその後も続き、1887年の中葡和好通商条約によってポルトガルによる排他的占有が認められたことで、マカオは事実上ポルトガルの植民地となった。第2次大戦を経て、1949年に中華人民共和国が建国されて以降もポルトガルとの間に国交がなかったことから長きにわたりポルトガル領の時代が続いた。79年の国交樹立後、87年に両国がマカオ返還の共同声明に調印し、97年の香港に続き1999年12月20日に中国に返還され「マカオ特別行政区」となった。

香港同様欧米の植民地となったマカオだったが、かつての宗主国だったポルトガルとのつながりが深かった上、香港のように近現代アジアの中心都市に発展しなかったことから、東西文化が時間をかけて融合した「世界遺産の街」が出来上がったのだ。
2005年7月、南アフリカで開かれた第29回ユネスコ世界遺産総会にて、「マカオ歴史地区」が中国31番目の世界遺産として登録された。「マカオ歴史地区」の世界遺産は聖ポール天主堂跡、モンテの砦、ナーチャ廟と旧城壁、ロバート・ホー・トン・図書館、ドン・ペドロ5世劇場、聖オーガスティン教会、聖ヨゼフ修道院及び聖堂、大堂(カテドラル)、セナド広場、仁慈堂、民政総署、媽閣廟(マーコミュウ)、ギア要塞、聖ローレンス教会、聖ドミニコ教会、プロテスタント墓地、カーザ庭園、鄭家屋敷、港務局、聖アントニオ教会など、20カ所以上の建造物からなる。

このうち、明代初期に福建省の漁師によって建てられたという媽祖廟である媽閣廟、1888年に疫病を鎮めるため建造されたナーチャ廟などは、中国伝統文化を代表する歴史的建造物と言える。ナーチャは今年第2弾公開されて大ヒットを記録した中国国産アニメ「ナタ 魔童の大暴れ」の主役である神童ナタ(哪吒)のことだ。一方、17世紀に建造されたマカオを代表する歴史的建造物の聖ポール天主堂跡をはじめとする教会群やプロテスタント墓地はマカオに根付くキリスト教を中心とする西洋の歴史を物語る。モンテの砦は1620年前後にイエズス会の修道士らが建造した。砦にはずらりと砲台が20基以上設置されていて、この地にも確かに戦いの歴史があったことを後世に伝えている。

また、ドン・ペドロ5世劇場やロバート・ホー・トン・図書館、鄭家屋敷などは19世紀ごろに建造された近代的な建物で、中世の教会群とは異なる風格を醸し出している。そして、今も昔もマカオの街の中心地としてにぎわいを見せるセナド広場は夜になると欧風建築群がライトアップされる様子が見られる。過去と現代の融合が作り出す美しい風景はマカオの旅で忘れられない思い出になるだろう。

マカオと聞いて多くの人が真っ先に思いつくのがカジノだろう。ド派手な建物に驚きながら一攫千金を夢見てカジノにチャレンジするのも一興だが、街の中に散らばる世界遺産を巡って中世や近代の様子に思いを馳せるのもマカオ観光の楽しみ方の一つと言えるだろう。
