冬季限定からオールシーズンへ、北から南へ 進化続ける中国の「氷雪経済」

ここ数年、中国の「氷雪経済」が熱を帯びている。毎年冬に行われる黒竜江省ハルビン市の雪まつりや冬季限定のテーマパーク「氷雪大世界」など、もともと「氷雪資源」は豊かだったが、国民の生活水準向上や2022年の北京冬季五輪誘致成功により、それまで限られた人の楽しみだった冬のレジャーが一気に庶民のものへと成長していった。そして今、「氷雪経済」は冬以外のシーズンや雪の降らない中国南部にまで拡大し、さらなる進化を遂げている。

「氷雪経済」は1兆元産業の時代へ

中国の氷雪経済規模は今年、1兆53億元(1元=約22億円)に達して「1兆元産業」の仲間入りをする見込みだ。また、国務院弁公庁は今後の目標として2027年には1兆2000億元、30年には1兆5000億元まで成長させることを打ち出している。氷雪経済は、氷雪観光・レジャーを柱として、設備・インフラ整備や試合・イベント運営、文化消費を含む完全な産業チェーンを構築しており、新たな産業振興の起爆剤の一つとして大きな期待をかけられているのだ。

中央政府の推進姿勢に合わせて、地方政府も積極的に振興策を打ち出している。新疆ウイグル自治区は30年までに氷雪産業規模を2000億元に、遼寧省は2500億元にする目標を立て、吉林省では1億元規模の「氷雪消費券」配布や関連用地確保優先といった奨励策によって、スキーシーズン中の観光消費額5400億元突破を目指している。

「冬だけしか稼げない」の克服、オフシーズンも繁盛へ

「限られた地域、限られた季節」のものだった従来の「氷雪経済」には「冬だけしか稼げない」という問題点があった。しかし、現在は季節的な制約を打破し、年間を通じて収益を生み出すモデルへの移行が進んでおり、「冬の観光地」が年間を通じて収益を生み出せるようになった。例えば、遼寧省瀋陽市のスキー場では夏と秋にゲレンデを「雲上の草原」として運営し、24年には18万人の観光客を誘致した。吉林省の松花湖ではマウンテンバイクコースやキャンプエリアを整備し、新疆ウイグル自治区ウルムチ市のスキー場ではオフシーズンに音楽祭を開催している。

ゲレンデがキャンプ場やサーキットになり、スキー場のリフトが観光リフトになり、用具レンタルショップはクリエーティブ商品ショップへと変身するなど、既存のリソースを生かした「オフシーズン観光」の整備により、スキー場は年間の収入が大きく増加。雇用の安定化と地域経済の活性化といったプラスの効果を生み出した。

北の天然資源、南の都市型 「氷雪経済」が全国化

また、天然の雪資源に恵まれた北部地域が主役だった「氷雪経済」が、人工降雪機などの普及に伴って南部へも拡大し、全国的な消費ブームへと変化していることも大きなポイントだ。

広東省深セン市にある深圳前海氷雪世界などの屋内型スキー場は複合施設内に設置することで高い集客力を備えている。また、南部の人々はウインタースポーツに触れる機会が少なかったことから潜在的な需要が大きく、スキー場の予約数では深センや武漢(湖北省)がハルビン、長春(吉林省)を上回る現象が起きているという。南部では北部ほど地方行政による財政支援が得られないものの、力強いニーズに後押しされて古い工場敷地の再利用に対する補助などを上手く活用しながらスキー場の建設が進められている。

一方、自然の環境を求めて北部のスキー場を訪れる南部の人々がますます増えており、今や北部での「氷雪消費」の主力になっている。北部は天然資源と充実した産業チェーンを生かす、南部は都市と融合した手軽なウインタースポーツ体験を提供するという棲み分けができ、良好な競争環境の中で互いに「氷雪経済」の発展をもり立てるという構図が生まれている。

最新技術がウインタースポーツを変える

さらに、氷雪経済の質を高め、利用者の体験を向上させる上でテクノロジーとの融合も欠かせない。「氷雪+」という概念のもと、5G、AI、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)などの先端技術が新たなビジネスモデルの創出に貢献している。例えば、滑走コースや滑走速度、斜度を視界の中で確認できるスマートゴーグル、メタバースを利用したオンラインの仮想スキー大会、スマートフォンのアプリで氷上のライトショーを操作しながらスケートを楽しめる没入型体験などだ。一方、新疆・アルタイ地区では古代の毛皮スキー板で探索するツアーが人気を集めており、歴史文化との融合も産業の成長に貢献している。

「氷雪レジャー」は、誰もが楽しむライフスタイルへ

オールシーズン化、地域の拡大、最新技術との融合により、ウインタースポーツは一部の愛好家のものから誰もが楽しめるライフスタイルへと変化した。主な消費者層は26〜35歳で、1人あたりの消費額は国内旅行の平均水準を上回る。単にスポーツを楽しむだけでなく、各種アクティビティーや飲食体験のバリエーションが豊かになり、関連グッズの開発も盛んになった。北京五輪後に国民の娯楽へと進化を遂げた中国の「氷雪産業」は、今後ますます「熱」を帯びてくることだろう。

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