スタバの女神から蜜雪冰城の「雪王」へ、中国飲食チェーン市場の変化

かつてはスターバックスコーヒーなどの外国の飲食チェーンブランドがステータスの一つとして人気を集めてきた中国でここ数年、大きな変化が起きている。今や国産ブランドが中国の飲食市場を席巻しており、カフェでは瑞光珈琲(ラッキンコーヒー)を始めとする国産チェーンがスタバの中国市場シェアを奪いつつある上、6月末にはスタバの総本山である米国への進出も果たしたことが話題になった。そんな中国国産ブランドブームを象徴するアイスクリーム&ティーチェーンブランドが今回紹介する「蜜雪冰城」だ。

■ 屋台から世界へ、蜜雪冰城の成り立ちと成長

「蜜雪冰城」は1997年に河南省鄭州市で創業したかき氷の屋台を起源とし、2000年に最初の店舗を出した。06年には後にブランドのシンボルとなるソフトクリームの発売を開始、07年にはフランチャイズ展開を始めた。その後加盟店が順調に増えていき、12年には食品会社を設立して原材料の自社生産を実現、13年には自前の物流パークを完成させた。17年には東南アジア海外事業部を設立して海外展開を開始し、18年にベトナム・ハノイで海外初の店舗をオープン。同年11月にはブランドキャラクターの「雪王」が登場した。20年には1万店舗を突破し、24年7月には日本でのフランチャイズ展開を開始、今年3月には香港証券取引所への上場を実現した。

昨年12月31日現在で、傘下のカフェブランド・ラッキーカップを含めて国内外に4万6000店舗以上を展開しており、年間の売上高は248億3000万元(約5000億円)、純利益は44億5000万元(約900億円)という超巨大飲食チェーンに成長した。

■ 成功の鍵は「超低価格×自社生産」

蜜雪冰城の主力商品は2元のアイスクリーム、4元のレモン水、6元のタピオカミルクティーとなっており、同業のチェーンブランドに比べるととにかく価格が安い。平均客単価も7元と業界平均よりはるかに低い水準にあるため、低所得層や若者層から圧倒的な支持を得ている。低価格を実現する秘密は、原材料から自前で用意できる自社生産体制と強固なサプライチェーンだ。レモン水に欠かせないレモンは中国最大規模の調達量でコストを下げ、その他の食材も自社生産率60%を実現している。使用するカップやストローなども自社でプラスチック粒子から生産する体制を整えているというのは驚きだ。

■ 「雪王」で築くブランド文化と感情的つながり

また、フランチャイズモデルによる大規模な店舗展開、特に大都市ではなく人口が集中する地方都市や農村部に重点を置いた戦略も成長の大きな要因だ。低価格ながらも質の高い商品を提供することで地方の人々に「新たな体験」をもたらし、莫大なファンを獲得することに成功した。さらに見逃せないのが、ソフトクリームのロッドを持ったキャラクター「雪王」を用いたIP(知的財産)ビジネス戦略。テーマ曲やアニメーション作品の制作に加え、さまざまな関連グッズの販売、コラボレーションイベントなどを次々繰り出すことで「蜜雪冰城」の文化を構築し、若者を中心とした消費者の感情的な結びつきを強化した。地震や洪水に見舞われた地域への積極的な寄付活動も、ブランドイメージの向上に大きく寄与している。

■ SNSが動いた「雪王を守れ」運動

消費者の「感情的な結び付き」を象徴する出来事も起きた。今年3月15日の「消費者権利保護デー」に放送される特別番組で、湖北省にある蜜雪冰城の店舗の劣悪な衛生状況が取り上げられた際に、SNS上で「雪王を守ろう」という集団行動が自然発生し、この店舗の売上が激増したのだ。「消費者権利保護デー」の特別番組で衛生問題が取り上げられた企業や店舗は世論から大きなバッシングを受けて売り上げを落とすのがお決まりになっている中、多くの消費者が店の支援に回るというのは異例中の異例と言え、衝撃をもって伝えられた。この件以外にも衛生問題や店舗経営のトラブルがたびたび報じられ、ブランドとして課題を抱えているものの、若者からの圧倒的な支持によって発展を続けている。

■ 「ダウングレード時代」の寵児に

中国経済の爆発的な成長にブレーキがかかり、「消費のダウングレード時代」と呼ばれる経済的にネガティブな社会環境も低価格を売りにする蜜雪冰城にとっては追い風になっている。しばしば「貧乏人のハッピードリンク」と揶揄(やゆ)さえされているが、現在の消費者ニーズを最も合致したことは間違いない。

蜜雪冰城ではこの夏、「1元氷カップ」を集客の目玉として積極的に売り出している。冷凍ケースの「氷カップ」を購入してドリンクを入れるスタイルは決して新しいものではなく、ほかのチェーン店やコンビニでも同様の商品を発売しているのだが、大量生産による低コスト戦略を採用するため頻繁に新商品を展開できない蜜雪冰城にとっては真夏商戦における主力アイテムなのだ。今年の夏は、大きな「雪王」のイラストが描かれた「氷カップ」に好きなドリンクを入れて楽しむ若者の姿を多く見かけることになりそうだ。

参考:https://baijiahao.baidu.com/s?id=1827726814323700247&wfr=spider&for=pc

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