中国の今年の夏季映画市場(6月1日から8月31日)は、ヒット作が相次いだことで興行収入と観客動員数が昨年の夏季を上回ったほか、新たな特徴が見られた。
■前半は低調、後半に巻き返し
興行収入は119億6600万元(1元=約20円)で、前年同期の116億4300万元から2.7%増加した。また、観客動員数は3億2100万人で前年同時期の2億8400万人から13%の大幅増となった。観客動員数が興行収入より高い伸び率を見せた背景には、期間中の全国平均チケット価格が37.2元で昨年で10%安くなったことがあるようだ。
また、期間の前半は低調で、後半になって一気に爆発するという特徴的な傾向が見られた。前半は「醤園弄:懸案」や「無名之輩:否極泰来」といった期待作が振るわなかったが、しかし後半に入ると「南京照相館」「浪浪山小妖怪」「捕風捉影」といった作品が次々ヒットし、巻き返しに成功。特に8月の興行収入は59億9000万元で、前年8月の40億3100万元の1.5倍近くに達した。期間中には134本の映画が上映されたが、興行収入トップ10のうち7作品は7月18日以降の期間後半に封切りされた作品で、いずれも国産映画だった。

■興行収入トップは「南京照相館」
興行収入1位は「南京照相館」で28億9000万元、観客動員数は8147万人だった。2位は「浪浪山小妖怪」が14億5500万元で、3位は「捕風捉影」が8億7900万元で続いた。輸入映画では、「ジュラシック・ワールド/復活の大地」が5億6700万元で5位、「F1」が4億2900万元で7位にランクインした。
■国産アニメの成長が顕著に
今年の夏の映画市場では、国産アニメ映画が特に好調だった。Webアニメシリーズ「中国奇譚」から派生した2Dアニメ映画「浪浪山小妖怪」は数千万元という低予算ながらも予想を上回る興行収入をマーク。観客動員数は3億人を超え、「浪浪山」がSNSで流行語となった。また「羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来」も前作を大きく上回る4億9200万元の興行収入を上げた。質の高い国産アニメ映画のヒットに伴って映画の派生商品(グッズ)の販売も活発化し、IPビジネスの好調ぶりが改めて浮き彫りとなった。

■新たな2つの「ヒットの法則」とは
今夏の映画市場を振り返ると、大きく分けて2つの新たな傾向が見られた。まず「口コミ」が興行収入の伸びを大きく左右した点。興行収入上位に入った作品は評価サイト豆瓣(Douban)でいずれも高得点を記録しており、「南京照相館」は8.7、「浪浪山小妖怪」は8.6点、「捕風捉影」は8.2点といずれも8点以上だった。かつて興行収入を左右した大スター、大監督、大作といった要素の影響力はますます弱まっているようだ。
2点目は、観客の幅広い感情的共感だ。「南京照相館」は中国人民の重く悲惨な歴史的記憶を背景に、登場人物の繊細な感情と史実の描写を通じて観客の心の奥深くに触れ、愛国心を刺激した。「浪浪山小妖怪」は、目立たない底辺の小妖怪たちが自らの価値と活路を模索する物語で、観客は自身の生活状況と小妖怪たちの冒険を重ね合わせて強く共感した。また日常の「あるある」的な笑いや感動的なエンディングも成功の一因となった。
■映画も「個の共感」が求められる時代に
中国の映画市場では今や、従来の「ヒットの法則」は通用しなくなり、観客が共感を得られる映画のみが支持されるという「私の映画」時代が到来した。昨年よりも良い成績を収めた映画市場だが、2010年代後半のピーク時に比べると完全に回復したとは言えない。ゲームやショート動画など娯楽が多様化する中で、映画は大衆の流行を追うのではなく、個々が「自分にとっての良さ」を見出す時代に入ったと言えそうだ。