地球は地震頻発期に入ったのか?中国の専門家の見解は
科学技術が発展した現代においてもいまだ実現できていない課題がある。それは完全な地震予測だ。頻繁に地震が発生する日本では緊急地震速報が導入されてからすでに10年以上が経つが、あくまで「起きた地震」を素早く察知し、これから来る揺れに備えることを目的としたものであり、地震発生を予知するものではない。地震予測が難しい中、ネット上では「近いうちに大きな地震が起こる」という情報が後を絶たない。日本を含む世界の地震状況について、中国科学院の専門家はどう見ているのか。

■世界の地震活動は活発化している?
中国科学院地球・地質物理研究所の王新研究員はこのほどウェブサイト「騰訊網」で、「ここ数年大きな地震が頻発しており、地球が振動モードに入ったのではないか」という疑問に対する自身の見解を発表している。王氏は今年に入って3月28日にミャンマーでM7.7、30日にトンガでM7、5月2日にチリ以南海域でM7.4の大きな地震が相次いで発生したことを挙げる一方で、1900年以降の世界における年平均地震発生回数はM8以上が1度、M7以上が20回、M6以上が133回で、今年の回数は平均値を上回っていないと指摘。頻繁に地震が発生しているように感じるのは、地震観測技術の向上と、情報伝播手段の発達によるものとの見方を示している。
■GPSや衛星技術による断層観測の革新
そして、地震観測技術の向上について、GPS観測や人工衛星、断層観測といった技術の進歩が大きく貢献していると説明。これらの技術が向上したことで、単一の断層を観測するモデルが複数の断層から総合的に判断する「断層ネットワーク」への認識へと進歩し、断層破壊のドミノ効果に関する研究や、応力、幾何学、流体力学など従来よりも多い要因から地震の発生を分析できるようになったとした。

■新たに確認された「超剪断破壊」現象
また、地震の波は縦波で速く緊急地震速報に利用される「P波」と、横波で遅く大きな破壊力を持つ「S波」が存在することが広く知られているが、S波よりも速く伝わる「超剪断破壊(スーパーシア破壊)」という現象が存在することが近年の研究により確認されたという。2023年に発生したトルコ地震など複数の大地震で超剪断破壊が確認されており、特定の方向にエネルギーが集中する強い地震動を生み、建物やインフラへの破壊的影響をもたらす可能性があるため、今後の耐震設計や地震動予測において非常に重要だという。
■地震予測で注目される「スロースリップ現象」
従来、断層の動きは「安定した滑り」か「急激な破壊」の二択とされていたが、近年の高精度GPS観測などにより、その中間の「スロースリップ(ゆっくり滑り)現象」の存在も確認された。スロースリップはプレート境界の地震発生帯で発生し、ほとんど地震波を発生させないが、滑りが応力状態を変化させ大地震の前兆になり得る可能性もあることから、地震予測の鍵を握る現象として注目されている。近い将来に発生する可能性が高いとされている南海トラフ地域でもこのスロースリップがしばしば確認されている。

■人間活動による誘発地震も
さらに、近年では人間の活動が誘発する地震の存在が明らかになっている。ダムの貯水や地下資源の採掘、廃水の圧入、水圧破砕などの行為が、地下の断層に影響を与え、臨界状態にあった断層を滑らせて地震を引き起こすことがあり、実際に米国中部や中国の四川省など世界各地で観測されているという。自然現象として発生する地震と合わせて、発生メカニズムの解明、防災・減災策の強化が求められるとのことだ。
■地震予測はなおも難しいが……
地震はいまだに完全な予測が困難な自然現象であるが、日頃から地震に対して備えることはできる。王氏が紹介したように、近年は観測技術の飛躍的な進歩や研究の深化によって多様な地震発生要因が明らかになりつつあり、これらの成果は防災・減災の精度を高める鍵となる。私たちができることは、最新の科学的知見に基づき備えを進め、確かな情報に耳を傾けながら、リスクを最小限に抑える努力を続けることだろう。