世界中の「スキマ時間」に見事に入り込んだ、中国のショートドラマ

1回あたり1〜2分というスキマ時間で視聴できる中国の「短劇」(ショートドラマ)が急速に世界に浸透している。その成功には実に様々な要素が絡んでいるようだ。

■想像を超える海外向けショートドラマの成長ぶり

中国発の海外向けショートドラマアプリは昨年、世界で約3億7千万回ダウンロードされ、アプリ内の課金収入は約5億7000万ドルに達した。いずれも2023年から10倍以上の伸びとなっており、その急速な普及ぶりがうかがえる。また、昨年12月時点で市場に存在する海外向けショートドラマアプリは202件に上っており、アプリを媒体とした「コンテンツ+チャネル」という手法が「短劇」世界進出戦略における特徴の一つとなっている。

世界の中でも特に大きな市場になっているのが、東南アジア地域と米国だ。東南アジア地域のユーザーはショートドラマの視聴や課金に対して他地域よりも積極的とされており、立志や逆襲といったテーマを盛り込んだ「梅花香自苦寒来」という作品は東南アジアだけで3000万回以上の再生回数を記録した。そして米国は海外向けショートドラマのダウンロード比率が世界の約3割を占め、昨年8月現在のショートドラマアプリ累計課金収入は1億5100万ドルに達した。また米国で人気のドラマアプリ「ReelShort」を運営する中国企業が昨年、タイム誌の「世界で最も影響力のある100社」に選ばれたことからも、米国における「短劇」の人気ぶりがうかがえる。

■どうしてここまでブームになったのか

では、ここまで中国の「短劇」が世界的なブームを起こした要因はなんだろうか。まず、1〜2分という非常に短い時間で手軽に見られ、スキマ時間の有効活用につながること、刺激的で予測不能な展開や速いテンポ感による爽快感が視聴者の「中毒性」を引き起こすこと、中国では「古臭い」「ダサい」と思われてきたストーリーが欧米では逆に新鮮なものとして捉えられていることなどが挙げられる。1分で終わるからとなんとなく1本見てみたら続きが気になり、そうこうしているうちに「沼」にハマっていく、という感じだろうか。

また、ネット小説やその映像化で培った中国独自のドラマ制作ノウハウを生かしつつ、世界各国の文化や嗜好を取り入れ、現地の俳優や撮影場所、ストーリー設定を採用するなど積極的なローカライゼーションを実践していることも、海外のユーザーが抵抗なく受け入れられる大きな要因になっている。現地化しつつも中国の文化やエッセンスとしっかりと残すというさじ加減が非常に上手いのだ。さらに、国境を超えた人類普遍の感情や「夢の実現」といった要素もストーリーに盛り込むことで、視聴者の共感度を高めている。

さらに、今や世界先進レベルと言っても過言ではない中国のITによる貢献も見逃せない。独自のアルゴリズムやビッグデータ分析など技術を駆使することで世界各地のユーザー1人1人に対して好みにマッチする「おすすめ」を提示できることにより、コンテンツの効率的な拡散につながっている。人工知能(AI)技術を活用した脚本作りやバーチャルと実写の融合も行われている。あらゆる技術の活用もあって従来のドラマに比べてはるかに低コストで効率的な制作ができることで、次々と新たな作品を生み出せるというのも大きい。

■大きな使命を秘め、さらなる成長へ

中国ネットワーク視聴協会が昨年11月に発表した2024年の「中国ショートドラマ業界発展白書」では、海外のショートドラマ市場規模は将来360億ドルにまで達すると予測されている。政治的な対立を深め、中国に対して貿易や先進技術で規制をかける米国において、中国発の「短劇」が一大ブームを起こしているというのはなんとも皮肉な話ではあるが、「短劇」は中国の文化を世界に広めるという壮大な使命を帯びた新たなソフトパワーコンテンツとして、海外市場でさらに存在感を増していくことだろう。

(出典:https://www.sohu.com/a/898782581_121284943)