上海に残る日本ゆかりの建築を訪ねる

1940年代に日本人が多く住んでいた虹口区では、日本人が引き揚げて以降上海市民が日本人が住んでいた住宅や日本とゆかりがある建物に居住し、そのまま建物が使われていることがある。

今回はそんな日本とゆかりのある建物を紹介する。一部再開発計画の為に現在立ち入りができない建物もあるが、歴史的価値の観点からここに紹介する。

 

 

 

最初に紹介するのは1931年築「旧西本願寺上海別院」。迫力あるレリーフが道からも良く見える。建築にそれほど興味がなくても、上海に長期居住する日本人は一度は訪れたことがあるのではないだろうか。

 

日本人建築士・岡野重久氏が設計し、現在もある建設会社・島津製作所が施工した。インド様式の建築であるが、東京にある、同じ本願寺系列である築地本願寺の設計とよく似ている。上海在住の日本人信者参拝のために建造された日本式寺院で、元は他にも仏塔等の宗教建築もあったが、その後取り壊された。現存する建物は現在、上海市の優秀歴史建築に指定されている。

 

 

 

現在音楽ショーを上演するライブバーとなっており、演目がある日は内部に入ることができる。ハロウィンやクリスマスのイベントも開催している。

所在地:乍浦路471号(The Pearl 珍珠剧场)

 

 

次に紹介するのは、「旧西本願寺上海別院」のすぐ近くにある1922年築「旧本圀(「国」の異体字)寺(ほんこくじ)別院」。

 

 

日本風建築様式の唐破風(からはふ)の屋根が入口に設けられていることが特徴。

 

その後上海市民の住宅として分配され、数年前まで多くの世帯がここに居住していた。敷地内には他にお堂のような建物もある。上海市優秀歴史建築。近年再開発計画による住民立ち退きがあり、内部には襖や欄間等が残されていたという話で、再開発計画が終了した後にかつての様式がどれだけ保存されるか注目される。

所在地:乍浦路439号

 

 

上記の建築が所在する乍浦路から少し離れた武進路にも日系寺院の跡地がある。こちらは「旧長徳院」。1944年にこちらに移転した。

元あった建築に唐破風を増築している。既に再開発計画により、住民が立ち退き、周囲の多くの旧建築は取り壊されているものの、この建物は未だ残されている。「旧長徳院」は保護建築の指定を受けていないため、今後見られなくなる恐れもある。

所在地:武进路524、536号

 

 

こちらはかつて日本人が経営していた「豊陽ホテル」。日本の政府高官や実業家が宿泊する高級ホテルだった。

 

長らく集合住宅として使用されていたが近年再開発計画により住民が立ち退きした模様。

所在地:北海寧路64号

 

 

旧日系旅館として有名な建物が、他に残っている日系旅館は「万歳館」。創業は1904年。こちらは「豊陽ホテル」よりも規模が大きい。日本人引き揚げ後は集合住宅として多世帯が居住していた。2020年に住民の立ち退きが完了し、建物への立ち入りが制限、一帯の再開発工事が進められている。上海市の優秀歴史建築に指定されているため、保護される方向にある。

 

この旅館に宿泊した有名人といえば真っ先に挙げられるのがあの文豪・芥川龍之介。数年前に日本で放映されたドラマ予告でもこの建物が紹介されていた。

所在地:長治路119-135号

 

 

また芥川龍之介が体調を崩して通った日系診療所も附近にある。

 

 

 

 

次に紹介するのは、中国人作家として日本人の間で有名な魯迅が住んだ家。彼は虹口で住まいを転々としていたが、特にかつての住まいとして保存、公開されているのが「魯迅故居」。魯迅は1933年からこちらに居住し、1936年に亡くなるまでここに住んだ。これまでも多くの日本人が訪れている。

 

 

また、普段なかなか入れない旧建築の内部も見ることができる貴重な場でもある。魯迅一家が居住していた場所は室内撮影禁止のため注意。魯迅については歩ける距離にある魯迅公園内に魯迅記念館及び魯迅が眠るお墓もある。

所在地:山陰路132弄大陸新邨9号

9:00-16:00開館(月曜定休)

参観料8元

 

魯迅の活動を支えたのが内山完造。内村は書店「内山書店」を開き、日本をはじめとする海外からの書籍を取り寄せ、魯迅に提供した。「魯迅故居」の近くにある「旧内山書店」跡は「1927魯迅与内山記念書局(1927魯迅と内山記念書店)」となり、魯迅作品、魯迅と内山氏の交流を紹介する展示の他、カフェも併設されている。

所在地:四川北路2056号

営業時間 10:00-21:00

 

 

内村完造氏については、虹口の街並み保存エリア「多倫路」内に銅像が建てられているので見に行っても良いだろう。

 

 

急速に開発が進む上海においては、古い建築自体残っていること貴重でありながら、日本とゆかりある建物が現存していることは日本人にとっても非常に意義があることである。隣国である日本と中国、いつの時代も日本人居住者が最も多い中国の都市・上海と日本都の結びつきについて思いを馳せずにはいられない。

 

虹口の訪問は地下鉄利用が便利。上海地下鉄10号線の「四川北駅」を起点としての散策をお勧めする。こちらに紹介しきれていない日本ゆかりの建物もまだあるので新発見をしに虹口を歩いてみてはいかがだろうか。

 

 

株式会社フライメディアは、映像制作を中心に、海外、主に中国、台湾、香港のリサーチ、コーディネーションサービス、ライブ配信サービスをご提供している会社です。
本日御紹介した「上海に残る日本ゆかりの建築を訪ねる」関連についてもっと知りたい方、写真の使用をご希望の方は、是非お問い合わせください。