四川省成都市と並び、中国西部を代表する都市の一つである重慶市。総面積のうち76パーセントを険しい山地が占め、長江と嘉陵江という二つの大河に抱かれた半島に位置する街はまさに「山城」と呼ぶにふさわしく、市街地でも標高が168メートルから400メートルの間で激しく上下し、平坦な土地を見つけることすら困難と言われる。近頃は「8D城市(8次元)」と呼ばれることも多いが、それもすんなり納得できるほど複雑な地形なのだ。
そんな重慶の地理的制約は、ここでしか見られない数々の「重慶らしさ」を生んできた。根底にあるのは、自然環境に寄り添いながら独自の都市空間を育む、「山の中に街を築く」のではなく、「街そのものが山の一部」となるスタイルだ。

■ビルの中をモノレールが貫く李子壩駅
重慶の独創的な都市設計を語るうえで絶対に外せない、象徴的な存在と言えば李子壩(りしは)駅だろう。
この駅はマンションの6階部分にあり、車両がマンションの中を通過する。なぜわざわざマンションの中に軌道を通したかと言えば「土地がなかったから」だ。1998年の計画当時、この場所には駅の建設と住宅の建設という二つの切実な要望が同時に存在していた。他の都市ならマンションとモノレールを別の空間にそれぞれ建設する事ができたろうが、平地が少ない重慶ではそれができなかった。それでもどっちも建てたい、という強い願望の結晶が、今の李子壩駅の形状なのだ。

ビルから電車やモノレールが出る、という光景は日本にもいくつか存在するが、基本的には始発駅だ。その昔、姫路市営モノレールにも集合住宅を貫通する構造の駅が存在したが、すでに廃線となり解体された。今の日本でビルを貫通する交通路といえば、大阪・梅田のTKPゲートタワービルを貫く阪神高速道路ぐらいだろう。
理由は簡単。「わざわざそんなもの作る必要がない」からだ。建物の利用者にとっては便利かもしれないが、ビルと鉄道・モノレールを一体化するには色々な問題を解決する必要が出てくる。その最たるものが、騒音と振動だろう。
モノレールとマンションの一体化が「使命」だった李子壩駅の建設にあたり、エンジニアたちは「駅橋分離」と呼ばれる高度な構造設計を採用した。車両の走行を支える独立した橋脚と、居住空間である建物の構造体を物理的に完全に切り離すことで、走行時の騒音や振動が生活空間に伝わらないにしたのだ。そのおかげで、駅の真上に住む人々はモノレールによる音や揺れに悩まされることなく、静穏な日常を過ごすことができるのだ。
現在、この列車を食べているように見える動画を撮影するのがネットで流行しており、人気スポットになっている。

■長江索道:生活の足から都市の象徴へ
重慶の空を渡るロープウェイ「長江索道」もまた、地形ゆえに導き出された必然のインフラの一つだ。霧や増水に左右されやすい水上交通に代わり、対岸へ渡るための確実な「生活の足」として87年に開通したもので、全長1166メートルを秒速6メートル、3分ちょっとで移動する。渝中区と南岸区という、長江によって分断された二つの生活圏を最短距離で結ぶ「頼みの綱」だ。

市民にとっての「長江索道」は、決して観光のためのアトラクションではなく、日々仕事や学校へ通うための「空飛ぶバス」的な存在。交通が発達した現在では都市の景観を楽しむ象徴的な存在として親しまれているが、その本質的な価値は、厳しい自然環境という壁を前にした重慶の人々の知恵と工夫そのものなのである。
■洪崖洞と吊脚楼:斜面にへばりつく歴史の積層
モノレールや「長江索道」が現代的なインフラなら、嘉陵江の峻険な斜面にへばりつくように建つ「洪崖洞」は、重慶という街の記憶を象徴する存在だ。「千と千尋の神隠し」の湯屋に似ていると、ネットで話題になっています。
「洪崖洞」では、傾斜地に直接柱を立てて床を支える「吊脚楼(ちょうきゃくろう)」と呼ばれる伝統的な建築様式が見られる。平地を確保しにくい山城において、垂直方向に居住空間を拡張しようとした先人たちの知恵が、この様式による複雑な造形美を生み出したのだ。


そして、「洪崖洞」自体は伝統様式を踏まえて2006年に建設された新しい商業施設だが、この地の歴史は戦国時代の軍事要塞「洪崖門」にまで遡ることができる。宋代には崖に刻まれた石窟寺院、明・清時代には水運の拠点としての商業街、そして抗日戦争期には市民の命を守る避難所として利用され、長い歴史の中で何度も役割を変えつつ、特殊な地形を持つ重慶の発展を静かに見守ってきたのである。
■自然に順応する「山城」の哲学
重慶の街を歩くと、住民たち起伏の激しい地形による身体的負荷を、日常の当たり前の営みとして受け入れている姿に感銘を受ける。この環境が、困難な状況下でも粘り強く、かつ柔軟に道を切り拓く重慶人の精神性を育んできたのだろう。
建築が山の一部となり、交通が空を駆け巡るこの都市の姿は、人間が自然を力でねじ伏せようとした結果ではなく、環境に合わせて人間が自らを変化させてきた適応の歴史そのものだ。
現代の効率一辺倒な都市計画が見失いがちな、場所と生活の密接な結びつきの大切さ、自然と共に生きていくことの豊かさを、静かに問いかけている。

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