中国のSNSで、ちょっとした話題になっているネタがある。
「打工人が自分の結婚式のために、ブランド協賛を20件も集めた」
ブランド協賛なんていうと、まるでオリンピックやワールドカップみたいな話だ。芸能人の結婚式にスポンサーがつくのは中国ではよくある話のようだが、これはごく普通の会社員カップルの話である。
「打工人」というのは、日本で言う「社畜」に近い中国のネットスラング。会社員だろうと肉体労働者だろうと、雇われて働く身をちょっと自虐的に笑い飛ばすときに使う言葉だ。
しかもスポンサーは、乳製品大手の蒙牛、激辛スナック「辣条(ラーティヤオ)」で知られる麻辣王子、新式ミルクティーチェーンの覇王茶姫といった、中国では誰もが知る大手ブランドたち。一市民の結婚式を協賛することで、一体何のメリットが得られるのか。その謎を解くカギは、今や世界最先端と言える中国のネット文化にあるようだ。
■やり方は意外とシンプル
「○○&△△結婚披露宴 Presented by 覇王茶姫」
かっこいいではないか。この名称を獲得するためには結構厳しい審査があるんじゃないかと思うが、実は結構簡単だ。
新郎新婦が、中国版インスタグラムのSNS「小紅書」で、ブランドの公式アカウントにメッセージを送る。「私たちはこういう馴れ初めで、何月何日に結婚式を挙げます」という話を綴って、協賛をお願いする。すると多くの場合はOKが出るのだという。ダメ元で送ってみたら本当に返事が来た、というカップルも少なくないらしい。
北京のある夫婦は、蒙牛や麻辣王子などから協賛を取り付けて、自己負担を4万元強に抑えたという。中国人民大学の2023年調査では、結婚費用の平均は33.04万元とのこと。これは可処分所得の8倍以上とのことで結婚は大きな経済負担になる。それが4万元で済んだというのだからスポンサー効果は絶大だ。

別のカップルは、10〜13世紀ごろの宋代をイメージした伝統衣装で結婚式を挙げたところ、蒙牛をはじめ7つものブランドから協賛が集まったそうだ。
■ブランドが積極的に協力する理由
協賛をOKしたブランド側が提供するのは結婚資金ではなく、飲み物やお菓子などの現物。その見返りに求めるのは、結婚式会場での写真や動画にロゴや商品が写り込むこと。そして、その写真や動画をどしどしSNSにアップしてもらうことこそがブランド側の狙いなのだ。新郎新婦側は結婚式に箔がつくし注目される上、コストが下げられる。ブランド側は中国の強力なネット上での宣伝効果が得られる。まさにwin-winの関係なのである。
ミルクティーの覇王茶姫はすでにこの流れを商機と見ていて、「婚礼計画」という団体注文サービスを用意している。2024年の1~9月だけで、婚礼など多くの人が集まるイベントに約150万杯を提供したそうだ。麻辣王子も同様で、花束代わりに辣条を使うといった演出が2000件以上の結婚式で行われたという。

ブランド協賛型の結婚式は今や、若い世代の結婚式の新しい定番になりつつあるようだ。
■ただし詐欺にはご用心
ただし、この流行には影の部分もある。
協賛の仕組みが広く知られるようになったことで、「協賛担当者を装って金銭を要求する」という詐欺が発生している。ブランドに協賛をお願いしていて、連絡が来たと思って喜んでいたら、実は詐欺だったというケースが起きているようだ。詐欺事案が続々と発生する中で、麻辣王子が公式に声明を出すなど、複数のブランドやプラットフォームが対応に追われる事態になった。
結婚式のブランド協賛は、婚礼にまつわる伝統的な形式やしきたりの数々にこだわることなく、自分たちらしい結婚式をできるだけ身の丈に合った予算で作り上げようとする、今の若者ならではの工夫と言えそうだ。
しかし、このトレンドも行き過ぎれば「結婚式が広告の場、ビジネスの場になってしまう」という懸念も出てくる。人生最大のイベントと言われる結婚式に企業のロゴが並ぶことに対して商業的なニオイを感じ取り、否定的な見方をする人も少なからずいるという。
とはいえ、どんな形式の結婚式であれ、あくまで主役は新郎新婦だ。主役の2人が望むのであれば、他人がとやかく言うことは野暮というものだろう。家族や友人、そしてブランドたちの前で誓った愛がどうぞ末永く続きますように。



