世界一の「長髪村」、女性たちが黒くつややかな髪を保つ秘けつは?

うんざりするほど炎天下の毎日が続く猛暑の8月。動くことさえしんどいという人も多いのではないだろうか。そして、暑くて汗をかきやすいこの時期は髪の毛のケアも大変だ。あまりの鬱陶しさに男女問わず「もういっそのこと坊主頭にしてしまいたいっ!!」と思っている人も大いに違いない。

一生に一度しか髪を切らない村

ところで、中国には一生に一度しか髪の毛を切らないという世界一の長髪村があるという。それは広西チワン族自治区桂林市にそびえる山の奥深くにある黄洛瑶寨と呼ばれるヤオ族の集落で、この集落で暮らす約70人の女性たちは鮮やかな赤い民族衣装を身を包むとともに、普段は黒々とした髪を頭の上でくるくると巻いている。まるで黒い帽子を被っているように見える彼女たちの髪の毛をほどいてみると長さはゆうに1メートルを超えて2メートルくらいになるとのことで、髪をほどく様子を「まるで滝から水が落ちるようだ」と表現する人もいるという。最も長い人では「運動場を半周できるほど」だというにわかに信じがたい情報さえある。

黄洛瑶寨に暮らすヤオ族の女性にとって、髪の毛は家族の伝承や福を象徴する大切なものなのだ。それゆえ彼女たちは一生の間髪の毛を伸ばし続けるのだが、一度だけ髪を切るタイミングがある。それは18歳の成人を迎えたときだ。大事に伸ばしてきた髪を18歳で一度切り、家の年長者に渡して保管してもらう。そして、自身が嫁ぐ際にこの髪の毛を「嫁入り道具」として持参し、新郎が持参した結婚の証になる品と交換するのである。集落ではこの伝統を1000年以上にわたって守っており、昨年もある女性が結婚する際に特産品の銀飾りとともに、箱3つ分、重さ2.5キロ以上の髪の毛を持っていったという。

黒くつややかな髪を保つ秘けつとは

黄洛瑶寨の女性たちの髪の毛を見ると、いずれも黒々としている上とてもつややかだ。中国語ではつややかな黒を「黒油油(ヘイヨウヨウ)」と形容するが、まさにそのイメージ通りといえる。そして、美しい黒髪の秘けつは高級なシャンプーやコンディショナーではなく、「米の研ぎ汁」を使った伝統的なヘアケアにあるというのだ。彼女たちは米の研ぎ汁に柚子の皮、野生のツルドクダミ、そして先祖伝来の生薬十数種類を混ぜて3日間発酵させた液体を使っている。液体は琥珀色を帯び、発酵したことによる淡いお酒の香りがするとのことだ。

ケアの方法は至ってシンプルだ。手製の木ぐしを発酵液につけ、髪の根元から毛先に 沿ってゆっくり優しく梳いていく。まるで赤ちゃんを撫でるかのような丁寧さからも、彼女たちがいかに自分の髪を大切にしているかがわかる。このケアを日常的に続けるだけで、長さ2メートルでも枝毛一つできない丈夫な髪に育つという。昨年、ある国際的な化粧品ブランドが彼女たちの髪の毛を調べたところ、弾力が通常の3倍ほどで、表面にできた天然の保護膜は最新設備の研究室でも再現が難しいことが分かったというから驚きだ。

「長髪」の村おこしで暮らしも豊かに

そんな黄洛瑶寨ではここ数年、「長髪」による村おこしに取り組んでいる。2018年には長さ2.3メートルの標本が見られ、発酵水によるケアが体験できる「中国長髪科技館」が完成したほか、村の女性の笑顔を印刷したパッケージの洗髪料やヘアケア用品を売り出し始めた。天然自然のヘアケア製品はたちまち観光客やネット上で評判となり、22年の1年間だけで1億3000万元(約26億円)の売上があったという。昨年11月の「双十一」ECセールでも米の研ぎ汁洗髪料が何度も品切れになったとのことだ。さらに、出稼ぎの留守を預かる地元の貧困世帯の女性たちが生産ラインを担うことにより、貧困問題の改善、解決につながった。

毎年4月になると黄洛瑶寨では棚田の豊作を祈願して「紅瑶長髪祭り」が開かれる。2年前のお祭りでは256人の女性が並んで髪を解き、それぞれ前の女性の髪をくしで梳くチャレンジを実施、全長456メートルの「髪梳きチェーン」を作り上げてギネス世界記録に登録された。伝統文化を生かして地域の活性化に取り組む「世界一の長髪村」は今後ますます中国国内、ひいては世界から大きな注目を集め、現地の新たな目玉観光スポットとなることだろう。

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