四川の山奥にひっそりと残る、世にも珍しい「一妻多夫」の村

中国の歴史ドラマの世界では、皇帝や皇族、さらには官吏や土地の有力者などあらゆる男性が正妻の他に側室や妾などを持つことが当たり前になっている。いわゆる「一夫多妻」の世の中だが、中国ではその風習は近代化の波とともに消えていき、今では完全に一夫一婦制が確立された。ところで、一夫多妻制の例は世界各地で見られた、あるいは今でも見られるのに対し、「一妻多夫」制の事例はあまり見られない。しかし、中国にはこの珍しい「一妻多夫」の風習を持ち続けてきた地域が今も存在する。

四川省の秘境に息づく独特の村

「一妻多夫」の風習が残るのは、四川省涼山イ族自治州木里チベット族自治県にある俄亜大村だ。雲南省との境界に位置する標高3000メートル以上の高地で、周囲を山と川に囲まれた自然豊かな場所であり、14世紀末に少数民族の一つであるナシ族が移住してから村の歴史が始まった。石でできた蜂の巣状の独特な家屋建築に住み、農耕地と居住地が離れているため、農繁期と農閑期で住まいを使い分けている。そして、馬とロバが主要な交通手段であるとともに、家族の財産の象徴にもなっているという。

世にも珍しい「一妻多夫」の理由とは

伝統的かつユニークな生活様式の宝庫と言えるこの村にあって最も個性的と言える風習こそ「一妻多夫」だろう。1人の妻に対して複数の夫が伴侶となるわけだが、あくまで同じ姓の兄弟たちが共通の妻を持つ「伙婚」(フオフン)と呼ばれる形式であり、見知らぬ男たちが「夫同士」になるわけではない。この風習が誕生したのは、まさに「生きるための知恵」だった。俄亜大村は土地が肥沃ではなく生活環境が厳しかったため、村の人々は「複数の家庭が独立して生活するよりも、複数の男性が一つの家族として共同で生活し、労働力と財産を集中させることで貧困から脱却し、生活を安定させられる」と考えたのだ。

独特の家族形態と「通い婚」の習わし

村の「伙婚」家庭では、妻が家庭内で非常に高い地位を持ち、家に関するあらゆる事柄の決定権を持つ。夫たちは妻の決定に従い、逆らえば家から追い出されることもあるという。夫たちはそれぞれ異なる仕事や役割を担うことによって、家庭全体の経済状況を安定させている。また、全員が同じ家に住む一方で寝室はそれぞれ独立していること、妻がそれぞれの夫と設けた子どもたちは家庭内全体で育て、子どもたちも全ての夫を「パパ」と呼んで実の父親同様に接することなどが特徴だが、もう一つ大きな特徴が「通い婚」の制度だ。男女が意気投合した場合、男性は夜な夜な女性の家に通って愛を深め、夜明け前に帰らなければならない。やがて愛が深まり妊娠がわかると、双方の家族が正式な結婚の準備を始めるのだ。子どもができたことで、家庭を持ち一家を食べさせていくことへの責任、覚悟を決める、というのが正式な結婚決意の持つ意味なのかもしれない。

秘境の村にも時代の波が……

俄亜大村の「一妻多夫」の風習が現代にまで受け継がれてきたのは、村が外部から隔絶された場所にあったことも大きな要因と言える。しかし、時代の波は確実に俄亜大村にも届いており、2010年に外部に通じる道路が開通し、かつて8日かかった県中心部への道のりが、わずか8時間へと短縮されたことで、都市の文化や新しい思想が村に流れ込み、現代的な設備が普及し始めた。若者たちは村の外の世界に目を向け、出て行く者も増えた。その結果「伙婚」や「一妻多夫」の家庭は徐々に減少しており、この風習も近い将来消滅するだろうとみられている。

その一方で、原始の風景を色濃く残し独特の魅力を保ち続ける俄亜大村の風習を守っていくべきとの声もある。21年3月には「四川省で最も美しい古村落」の称号も得た。「一妻多夫」の風習はやがて現実世界から姿を消すかもしれないが、村が培ってきた文化や精神は、これからも受け継がれていくことだろう。

(出典:https://baijiahao.baidu.com/s?id=1825809991123124891)

X
Facebook
Email

関連記事

中華圏のことは、フライメディアに

Copyright 株式会社フライメディア 2024  

Tel: +81-3-5843-3063 〒170-0013 2F Shouji Building, 2-44-2 Higashi-Ikebukuro, Toshima-Ku, Tokyo, Japan

  Inspiro Theme by WPZOOM

en_USEN