中国でオーロラが見える、最果ての街「漠河」が問いかけるもの

中国の地図を広げ、その最北端にある、まるで鶏のトサカのように突き出た部分を指でなぞると、一つの街にたどり着く。それは黒竜江省大興安嶺地区の漠河市だ。

北緯53度という高緯度に位置し、悠久の大河である黒竜江(アムール川)を隔ててロシアの外バイカル辺境区やアムール州と向かい合うこの街は、242キロメートルにも及ぶ長い国境線を有している。総面積1万8428平方キロメートルという広大な土地に、わずか6万人ほどの人々が暮らすこの場所は、「神州の北極」という異名を持ち、訪れる者に深い畏敬の念を抱かせる。

■極寒が織りなす「拒絶」と「恩恵」

漠河への旅は、まずその厳しい「寒さ」を理解することから始まる。この地は寒温帯大陸性季節風気候に属し、一年の半分以上、実に7か月にわたって月平均気温が氷点下を下回る。大地が凍らず、作物の栽培が可能な「無霜期間」はわずか90日ほどに過ぎない。しかし、この人間を拒絶するかのような厳しい気候こそが、漠河を特別な場所足らしめている源泉である。

その過酷な環境がもたらす一番の「恩恵」と言えるのが、夜空を彩る神秘的な光、オーロラだろう。通常、南北両極に近い地域でしか見ることのできないオーロラだが、漠河は中国国内で最も観測に適した稀有な地理的条件を備えている。現地には中国初のオーロラ博物館もあり、オーロラという現象を科学的な視点から学ぶこともできる。

■夜空を焦がす光の舞、オーロラを求めて

太陽から放出された帯電粒子が地球の磁場に捉えられ、大気中の原子と衝突して発光するのがオーロラの原理。だが、夜空という巨大なキャンバスに緑や赤、紫の光が揺らめく圧倒的な美しさを目の当たりにすれば、そんな原理などどうでもよくなってしまうことだろう。

特に近年は太陽活動の周期的な影響によってオーロラの出現頻度が高まっているという。夏至前後の「白夜」が観測の好機という常識は変わりつつあるようで、2024年の9月や、25年の元日といった秋、冬の時期にもオーロラが観測された。

観測のチャンスは増えたとは言え、中国の最果ての地、漠河が最高の観測地であることに変わりはない。それでもこの美しく幻想的な天体のイルミネーションを見るべく、各地から何千キロもの旅を経て「追光者」と呼ばれる人たちが続々と漠河にやって来るのだ。

■大河の蛇行と、原始的な文化も大きな魅力

漠河の魅力はオーロラだけにとどまらない。視線を地上へと移せば、そこには大興安嶺の深い森と、大河が織りなす荘厳な景観が広がっている。特に黒竜江が「Ω」の字を描くように大きく蛇行する「竜江第一湾」は、水流の力強さと山々の静寂が融合した、圧巻の光景である。

また、オーロラ観光で賑わう北極村から少し足を伸ばし、「北紅村」と呼ばれる集落を訪れれば、より原始的な風景に出会うことができる。飾り気のない木造の家屋、白い息を吐きながら行き交う人々。そこには、過酷な環境と折り合いをつけながら営まれてきた、質朴で力強い日常が確かにある。

さらに、長きにわたり森でトナカイと共に生きてきたエヴェンキ族(鄂温克族)の伝統的な生活文化を知ることもできる。彼らは自然を支配するのではなく、自然の一部として生きる術を知っている。野生のブルーベリーを採集し、トナカイを放牧するその姿は、現代社会が忘れかけている自然との調和を静かに教えてくれるようだ。

■「冷たい資源」で「ホットスポット」化、持続可能な発展の形

こうした豊かな自然と文化資源は、現代の経済活動とも結びついている。2024年の漠河市の地区総生産(GDP)は前年比2.6%増の35億1000万元に達した。この数字は、一過性の観光ブームによるものではなく、「中国最北」というブランド価値と、手つかずの自然環境を「エコロジー文明」として保全・活用する戦略が奏功したものと言える。厳しい寒さを逆手に取った「冷たい資源」の活用は、持続可能な経済発展のひとつのモデルケースとなりつつある。

漠河を旅することは、単に美しい景色を眺めることではない。それは、人間がコントロールすることのできない圧倒的な自然の力と、その中で連綿と続いてきた人々の営みに触れる体験だ。零下数十度の張り詰めた空気の中で、音もなく揺らめくオーロラを見上げるとき、あるいは凍てついた黒竜江の岸辺に立ち、対岸の異国を眺めるとき、私たちは日常の喧騒から切り離され、ただ「そこに在る」ことの尊さを知る。

神州の北極、漠河。そこは、世界の広さと静寂を肌で感じるための、最果ての聖地なのだ。

X
Facebook
Email

関連記事

Copyright 株式会社フライメディア 2024  

Tel: +81-3-5843-3063 〒170-0013 2F Shouji Building, 2-44-2 Higashi-Ikebukuro, Toshima-Ku, Tokyo, Japan

  Inspiro Theme by WPZOOM