中国生成AIドラマの申し子、「方桃子」の光と影

中国の映像業界において、AI技術を活用した短編ドラマが凄まじい勢いで普及している。当初はAI作品に対して批判的だった視聴者の間でも、みるみるうちに高まるクオリティの前に認めざるを得なくなってしまうほどだ。

また、動画プラットフォームの枠を出て地上波テレビの放送に採用される作品も現れた。映像産業は今、AIによってこれまでにない激しい再編の時期を迎えているのだ。

■「不完全」が魅力なAIキャラクター「方桃子」

こうしたトレンドの中で、現在最も注目を集めているのが、ショート動画プラットフォーム「抖音(ドウイン)」で累計再生回数2億5000万回を超えるヒットを記録したAI短編ドラマ『解雇された少女』の主人公を演じた、方桃子(ファンタオズ)だ。

方桃子(ファンタオズ)

彼女は生成AIがストーリーとともに生み出した少女であり、実在する俳優が演じたわけではない。それでも彼女が支持された最大の要因は、従来のデジタルキャラクターにありがちな「作り物感」を徹底的に排除し、あえて「ほくろ」や「クマ」といった不完全な要素を残すことで獲得した「人間らしさ」にある。視聴者は実在する人物同様に彼女の性格や劇中で語られる夢に深い共感を寄せ、声援を送るのである。

■生身のインフルエンサーを超えた広告単価

方桃子は、キャラクターとしての人気に留まらず、トップインフルエンサーとしての莫大な商業的価値を確立するに至った。彼女の広告出演料は、60秒以上の動画で25万8000元(約600万円)と、実在する人気インフルエンサーを凌ぐ金額に達している。

公式アカウントは運用開始から短期間で50万人以上のフォロワーを獲得しており、劇中で着用したアクセサリーが数万個単位で売れるなど、現実の経済活動にも多大な影響を及ぼしている。まさに「売れっ子」そのものだ。

■方桃子を待ち受けていた大きな「落とし穴」

しかし、順風満帆に見えた彼女のキャリアは思わぬ形で大きな挫折に直面することに。プロモーションを行ったカラーコンタクトレンズの動画が、公開からわずか7日で削除に追い込まれたのである。

問題になったのは、動画内での「一日中着けていても快適」という感想だった。そもそも身体や眼球を持たないAIが、実体験に基づかない主観的な感想を述べることは「虚偽広告」に当たるのではないかとの批判が相次いだ。

方桃子(ファンタオズ)が出演したCM

さらに、中国の法律でカラコンは「第三類医療機器」に該当し、効能や快適さを保証する表現が厳格に禁じられているという法的背景も厳しい状況に追い打ちをかけた。AIの特性に対する、マーケティング業界の認識がまだまだ甘く、どこに「地雷」があるかを把握しきれていない現状が浮き彫りになった。

■実在した俳優のAI化も進むが

方桃子が完全なオリジナルAIキャラである一方、業界ではすでに、実在する俳優の肖像や音声をAIで再現する手法も広く用いられている。往年の名優を「蘇らせる」ことに大きなニーズがあり、それを使ったビジネスも成立しつつあるのだが、どこまでが許され、どこからが侵害になるのかという「線引き」が大きな問題になる。

AIの専門家である宋耀氏は、実在の人物の顔や声をAIに使う際に最低限守るべき一線として、4つの点を挙げている。1つ目は、許諾は一回ごとに、使い道を明示して取ること。2つ目は、視聴者を欺かないよう、AIで作った内容だときちんと表示すること。3つ目は、違法行為や誇大広告など、危うい用途に使わせないこと。そして4つ目が、本人の評判を傷つけたり、その人の信条に反したりする内容をAIに演じさせないことだ。

宋氏は「AIで買えるのは技術であって、人格ではない」と言う。外見や声はデータとして写し取れても、その人が積み重ねてきた歩みや人となりまでは、金で買って自由に「生成」することはできないのだ。

AI時代、人間にしかできないものをどう作るか

今年1~3月に中国で発表された新作ショートドラマ約12万8000本のうち95%以上でAIが用いられているという。AIの普及によってコンテンツ制作のハードルが下がり、供給量が大きく増えている。これは業界における劇的な「構造変革」と言えるだろう。

中国のSNS「Douyin」で配信中のAIショートドラマ

その一方で、生身の俳優がカメラの前で実際に血の通った演技をすることで生まれる「深み」は、いくら高性能なAIでも再現が難しい。これからの時代、AIを使いこなしつつ、人間ならではの複雑な感情の深みをいかに表現するかが、作り手にとって非常に大きなテーマになっている。

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