世界最大の製造業×巨大な観光市場 中国の「工場観光」がアツすぎる!

日本では美しい夜景を楽しめる夜の工場ツアーや、製造ラインの見学や様々な試食、試飲が魅力的な工場見学ツアーが人気を集めるようになってからすでに久しい。大人も楽しめ、子供にとっては教育的な要素も兼ね備えた「工場観光」は現代的な観光の形としてすっかり定着した感がある。

中国でもここ数年、従来の工場見学の枠を超えた新しい形態の工場観光が、特に都市部の社会人の間で人気を博している。「工場ディズニーランド」とも呼ばれる工場観光の発展モデルは主に「工場遺産の開発・再利用」と「稼働中工場の観光化改造」の2つに分けられる。

廃工場が変身!「レトロ産業テーマパーク」

工場遺産の開発・再利用は、歴史的な工業遺産を基盤に、テーマパークや博物館、クリエイティブパークなどを造成し、工業都市や工業団地に新たな活気を取り戻すものである。2003年に開館した代表格の青島ビール博物館は、現役のビール工場と歴史的な旧工場建物を巧みに融合させ、120年以上の歴史を持つ醸造設備と近代的なスマート生産ラインを同時に見学できる。春節期間中には60元の入場券だけで4万6300人の来場者を記録し、約400万元の収益を上げた。

青島ビール博物館 SNSから

100年の歴史を持つ製鉄所跡地を再開発した北京首鋼園区もその代表例の一つ。22年北京冬季五輪の競技会場として注目を集め、現在は国際見本市の常設会場やスポーツ施設、商業施設が一体となった複合施設となっている。24年には来場者数が1300万人に達し、25年1〜6月には665万人以上の来場者が2億6000万元の消費をもたらした。

2022年2月14日、中国の選手である蘇翊鳴が、首鋼スキージャンプ台で競技を行いました
新華社記者 薛宇舸撮影

最先端工場を直撃!「超絶クールな見学ツアー」

稼働中工場の観光化改造は、工場内に企業博物館や展示館を併設して生産ラインを公開し、企業のブランドプロモーションと観光開発を両立させる。小米(シャオミ)汽車工場はプレス、溶接、塗装、最終組立まで、約1000台のロボットが協調して稼働する全自動生産ラインを公開。「中国のスマート製造」の象徴と言える工場の様子は圧巻そのものであり、当選率はわずか1%にも満たないほどの人気ぶりだという。

中国・北京にあるシャオミのEV工場の生産ライン。2024年3月25日
Photograph: Getty Images

「四足歩行ロボット」で有名な 宇樹科技(Unitree Robotics)春節期間中に臨時で開放した500人の個人見学枠が1時間で埋まり、当選率は0.1%未満だった。一大ブームを巻き起こした広西チワン族自治区柳州市のタニシビーフン工場も入場料や関連グッズの販売により、24年には2000万元以上の売上を記録した。

なぜ今、中国で工場観光がアツいのか

中国の工場観光は欧米や日本の先進国に比べて発展が遅かったものの、ここに来て急速に発展した背景には、従来の画一的な観光に飽きた消費者が、深い文化体験や知識の習得を求めるようになったという「消費者ニーズの高度化」、多くの旧工業都市が汚染やエネルギー効率の問題により工場が移転し、跡地を新たな産業拠点として活用する「産業構造の転換と都市再生」、そして「政府による強力な政策支援」という3つの要素が挙げられる。

ゴミ処理の体験活動 SNSから

中国国内のシンクタンクによると、工場観光市場は向こう5年間で年平均18%の成長率を維持し、29年までに市場規模は3000億元を突破する見込みであり、文化観光産業のなかで最も高いポテンシャルを秘めているという。

課題もあるけど、未来は明るい!

観光産業の新たな起爆剤として期待される工場観光だが、課題もある。稼働中の工場に観光客を立ち入らせることによる生産性や安全性への影響、案内役や予約システムなど観光分野の専門的な管理体制の欠如、見学内容に見合わない高額な入場料や誇大宣伝といったサービスの質の問題などがその代表例だ。

とはいえ、世界で最も充実したサプライチェーンを持つと言われている中国の工業製造業と、巨大な観光市場が融合した工場観光の分野は計り知れない潜在力を秘めていることは間違いない。今後の中国の観光業のみならず、中国経済をけん引する柱の1つになる可能性は十分にあるだろう。

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