世界で愛される「LABUBU」、中国アートトイブームの背景

中国発のアートトイブランドPOP MARTが展開するキャラクター「LABUBU」(ラブブ)が世界的なブームを呼んでいる。ウサギのような耳を持った「どこから来たのか誰にもわからない」エルフという設定のLABUBUは一見、何の変哲もないありがちなキャラクターに思えるのだが、どうしてここまで爆発的な人気となったのか。中国のアートトイブームの秘密を探る。

オンライン・オフラインで広がるブーム

「LABUBU」などの中国産アートトイブームは、オンライン、オフライン両方のチャネルで起こっている。まずオフラインでは、昨年ベトナムやインドネシア、フィリピン、イタリア、スペインの5カ国でPOP MARTの実店舗が初めてオープンした。また、以前より出店していたタイや英国でもテーマ性を持った特別な店舗や旗艦店が設けられ、7月にはパリ・ルーブル美術館のショッピングセンターにも進出。昨年末現在で世界30カ国・地域に500店舗を出店している。パリのラ・デファンス地区に今年4月オープンした店舗では、オープン開始前から数百人が店の前に長蛇の列を作ったとのことで、地元のブロガーが「人の海ができている」としてその様子をSNS上で紹介し、注目を集めた。

POP MART 原宿本店

また、海外店舗だけではなく、中国国内の店舗に足を運ぶ外国のLABUBUファンも少なくない。オーストラリアから来たある観光客は「上海のPOP MART世界旗艦店は売り場が広く、未来感に満ちたデザイン」とコメント。LABUBUのような中国発のアートトイに熱中する前の自分は、中国を旅するなど想像できなかったとも語っている。

オンラインでは、すでに世界90カ国・地域の消費者が複数の越境ECプラットフォームを通じて中国のアートトイを購入しており、昨年のPOP MARTの海外市場向けオンライン売上高は前年比9.3倍の14億6000万元(約292億円)にまで膨らんだ。公式サイトの売上高も同13.5倍の5億3000万元(約106億円)、TikTokを通じた売上に至っては同58倍の2億6000万元(約52億円)と爆発的な成長を見せた。オンライン・オフラインを合わせた海外市場の売上高では、東南アジア市場が全体の47.4%を占めて最も多く、北米市場も急速な伸びを見せて全体の14.3%を占めた。

独特なデザインと感情的価値がブームの原動力

LABUBUなどの中国のアートトイが世界で爆発的なブームを起こした要因の一つが、独特なデザインと感情的な価値だ。5千年の歴史を持つ中国の文化的な深みと、現代的なセンスやトレンドが巧みに結びつけられており、単なるキャラクターにとどまらない、芸術性と普遍性を備えた魅力が生み出されている。また、ルーブル美術館所蔵の名画にLABUBUが扮する、マーライオンとLABUBUがコラボするといった各国・地域の特性をうまく取り込んでいることも、各地のファンを増やすうえで大きく貢献しているようだ。

さらに、卓上オーナメント、キーホルダー、携帯ストラップなど多岐にわたる製品の展開も大きな魅力。「持ち運べるアート」として所有する楽しみ、喜びを掻き立てる。また、感情の解放に主眼を置く若者の消費トレンドを捉え、キャラクターによる感情的な表現が消費者の共感を生み、癒やしや慰めといった感情的価値を提供する、という従来の玩具にはなかった特徴も重要なポイントと言える。仕事や日常生活に疲れた若者が、LABUBUたちを見て心を癒やし、明日の活力を得る。アートトイは人間と深くつながることに成功したのだ。そして何より大きな役割を担っているのが、TikTokなどのSNSとインフルエンサーの存在だ。著名なインフルエンサーが商品をSNSで紹介することによって注目が集まり、爆発的な人気となる。今やSNSとインフルエンサーがトレンドを作り動かしていると言っても過言ではないだろう。

今後の成長の可能性と課題

昨年世界市場で爆発的な成長を見せた中国アートトイ産業だが、中国社会科学院によると市場規模は2026年まで年間20%程度の成長率を保ち、1100億元(約2兆2000億円)に達するとのことで、まだまだ成長の余地が残されている。今後は消費水準が高く高品質な製品を求める欧州や、若者のトレンド受容性が高い中東地域が主なターゲットになっていくかもしれない。しかも、アートトイブームは中国のインバウンド観光需要も喚起させており、中国にとってはソフトパワーの輸出、国内経済の活性化などさまざまな点でメリットを持つ。中国政府がバックアップ体制を一層整えていくことも考えられる。

2016~2024世界中国アートトイ市場規模と増加率

一方で、新たな市場開拓に当たってはこれまで以上に文化の違いを意識する必要があるかもしれない。また知的財産権の保護もブームの継続には欠かせない。各国の文化を尊重した現地化、異なる商習慣や規制への対応、そしてさらなる知名度と影響力の向上といった点が、中国アートトイ産業が世界を代表する産業へとさらに躍進するための課題と言えそうだ。