尖沙咀に「海防道臨時街市」という場所がある。尖沙咀にある唯一の大排檔(ダイパイドン=屋台)が集まるエリアで、1978年に設営されたそうだ。九龍公園脇の海防道に沿った一角に造られ、高架下のスペースを活用して街市(野菜や果物、花屋からハラル肉を取り扱う小さな店舗が集まっている)、そして大排檔が集まる熟食中心に分かれている。
海外からの観光客が集まるブランド店やホテルが密集した尖沙咀にありながら、朝や昼時になるとサラリーマンや地元の人が集まる熟食中心は、まさに都会の中の地元のオアシス的な存在であった。薄暗い高架下に造られた熟食中心は、昔ながらの古い屋台が所狭しと並んでいた。また暑いさなかに扇風機だけを頼りに食事をする人びとの姿は、ノスタルジック香港を彷彿させる場所でもあった。
そんな古き良き姿を残す「海防道臨時熟食中心」が40年ほどの歴史に幕を閉じ、約14ヶ月の長期改装に入ったのは記憶にまだ新しい。長年ここで営業をしてきた店には、地元ローカルグルメ特集に名を連ねる店もあった。改装後にその店がどうなるか等は誰にも分からなかったので、改装直前になると多くの人がその味や店の様子に別れを告げるために訪れた。
そして惜しまれながら長期改装に入り1年以上の時を経てこの場所が再オープンしたのが、2020年10月のこと。今日はその生まれ変わった「海防道臨時熟食中心」の様子をご紹介したい。
まずは入り口から。こちらの写真は、海防道側に位置する入り口である。この入り口付近の様子は全く変わっていない。中に入っていくと最初に街市~花屋、小さな果物屋、そしてハラルミートの店が幾つか点在している。
海防道側の入り口には花屋がある
ちなみにこの入り口には「海防道臨時熟食中心」が「新装開業」した旨を知らせるこんな案内が出ていた。
緑の赤の組み合わせが香港らしい、看板
そして街市の奥で待ち構えているのが、こちら。新しく生まれ変わった「海防道臨時熟食中心」だ。昔は大排檔が点在しており、まるで迷路のような中を潜り抜けてお目当ての店を訪れたが、改装後は広々としたスペースになって、一帯が見渡せるように変わっていた。そしてそれぞれの店は、広場の端に並んでいる。
新装開店した「海防道臨時熟食中心」の様子
広々と見渡せ、綺麗に産まれかわった「海防道臨時熟食中心」だが、どことなくまだノスタルジックな雰囲気が残っているのは置かれている香港らしい丸テーブルやプラスチックの椅子、そして赤ランプなどの醸しだす雰囲気故だろうか。あの映画の中のようなディープな雰囲気こそないが、どことなくノスタルジックな要素が残っていることに少しほっとする。
そして前のように大排檔が幾つもあるが、それぞれの店にはそれぞれの縄張りがある、という事は変わっていない。テーブルには個々の店名が掲げられているので、食べたい店を選んだらその店の名前がある場所に座る事となる。
「海防道臨時熟食中心」の様子
こちらが筆者のお気に入りの店の一つ「徳発牛丸」。テーブルには店の名前が書かれている場所を選んで座った。
コロナの飛沫防止のためにたてられたプラスチックの衝立に、店の名前が貼られていた
この徳発牛丸という店は、弾力のある牛肉ボールが有名な麺を出す店で昔から有名である。麺のメニューはいたってシンプル。牛丸(牛肉ボール)、牛腩(牛バラ)、牛筋(スジ)、牛雜(モツ)から2種類のトッピングを選ぶ。
麺のメニュー
この牛丸の弾力とジューシーさが病みつきになる
勿論麺以外のメニューもある。これは大排檔メニューでよくみかけるカヤトースト。この店のカヤトーストは、シンプルにカヤジャムとたっぷりのマーガリンを挟んだもの。麺だけでは物足りないという人は、麺とこのカヤトーストをオーダーすれば満腹になる。
カヤトーストといっても種類豊富、これは一番スタンダードなタイプ
ちなみに海防道側ではない入り口はこちら。ビルの裏手にある小さな公園の奥に入り口があるが、こちらは知る日とぞ知る裏側の出入り口、といったところである。
別の入り口。入り口脇のブルーの設営所で、コロナ追跡のためのアプリ登録などをしてから熟食中心のスペースへ入る。
大排檔の様子を見てみたい、体験してみたいという人には少し綺麗になって産まれかわったばかりの「海防道臨時熟食中心」をお勧めしたい。(文/写真 香港コーディネーター 矢島園子)
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